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塩野義♡応援の為の資料部屋の掲示板

シリーズ薬不足の裏側 原薬の安定確保 国の課題

2024/3/27 読売新聞( m3.comサイト内)

 ジェネリック医薬品(後発薬)メーカー大手の東和薬品(大阪府)で購買本部長を務める山本剛之さん(47)は、2023年10月、気の休まらない日々を過ごしていた。

 抗アレルギー薬の有効成分である原薬をイスラエルの会社から仕入れる予定だったが、イスラム主義組織ハマスがイスラエルを攻撃したためだ。イスラエルが報復して戦闘が激化、従業員がなかなか工場に通えなくなり、出荷に遅れが出た。

 東和薬品では毎日、イスラエルの原薬メーカーと連絡を取って状況を確かめ、輸送期間を短縮する方法を探った。ようやく入手できたのは、年末になってから。山本さんは「原薬がなければ薬は作れない。地震などの天災や天候不順などリスクはいくつもある」と気を引き締めた。

 日本は、医薬品の原薬や、そのもとになる原材料の多くを海外に依存している。三菱UFJリサーチ&コンサルティングが22年度に後発薬メーカーを対象に行った調査では、約8500品目のうち6割強で輸入した原薬や原材料が使われていた。

 調達先は中国、イタリア、韓国、インドなどが多い。人件費や建設費が安く、原薬や原材料も安価になるためだ。国内では製造されていないものもある。

 ただ、流通の過程でトラブルが起きることで、入荷が止まったり遅れたりするリスクも高まる。日本薬業貿易協会長の藤川伊知郎さんは「近年、国際情勢が不安定さを増し、感染症の大規模な流行も起きた。原薬の安定確保は国の重要な案件になっている」と話す。

 19年には、手術時の感染予防に欠かせない抗菌薬が不足する問題が起きた。中国にある原材料工場の操業停止などが原因だった。

 コロナ下の20年には、インド政府が原薬の輸出を規制した。感染拡大を防ぐためのロックダウン(都市封鎖)で工場からのトラック輸送が遅れ、旅客機の減便で輸送力が低下した。

 国内にも原薬メーカーはあるが、こうした緊急時でも、急激に増産することは容易ではない。日本医薬品原薬工業会副会長の白鳥悟嗣さんは、「増産するには、製造方法の変更に関して国の承認を得る必要がある。手続きには数か月から1年以上かかる」と話す。設備投資の負担も大きい。

 製薬各社は、調達先を複数確保する努力を続けている。厚生労働省も、増産時の承認手続きを2024年度にも迅速化する方針だ。中国などに依存している抗菌薬の原薬について、厚労省は経済安全保障推進法に基づき、国内の製造設備建設への助成を始めている。

 北里大教授の成川衛さん(医薬開発学)は、命と健康を守るために政府全体としての対応が重要だと訴える。「解決は容易ではない。原薬や原材料の国内生産量を引き上げ、信頼できる国同士で生産を分担・融通するなどの対策の検討を急ぐべきだ」と話している。