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塩野義♡応援の為の資料部屋の掲示板

抗菌薬の原薬確保、脱中国依存へ
30年ぶりの国産化向け政府支援

2024/3/25 読売新聞( m3.comサイト内)

 国内の製薬企業が約30年ぶりに抗菌薬の原薬製造に乗り出す。今春には工場の整備が始まる。抗菌薬は手術に欠かせないが、現在はその製造に不可欠な原薬を中国からの輸入に頼っている。国際情勢の不安定さが増す中で、政府は自給を目指して企業への支援に乗り出したが、高コストになりがちな国内製造を持続するためには課題も多い。

◆手術に不可欠

 「Meiji Seika ファルマ」岐阜工場(岐阜県北方町)にある高さ11メートルの発酵タンクでは、「ペニシリンG」という抗菌薬の原材料を1994年まで製造していた。工場はピーク時、国内需要の5倍にあたる年間約1000トン超の生産量を誇った。

 抗菌薬は細菌の増殖を抑えたり死滅させたりする薬で、手術に欠かせない。同社はこのタンクで約30年ぶりの製造再開を目指している。原材料を精製する新設備の建設を5月に始める。

 同社には製造再開の「種」となるカビが残されていた。当時製造に携わっていた山田浩一郎さん(58)は、「退職を前に温度管理などの製造ノウハウを引き継ぎ、国のために生かせるのはうれしい」と意気込む。

 日本は抗菌薬の原薬生産が盛んで海外にも輸出していたが、1990年代に人件費が安い中国への技術移転が進んだ。現在は、ペニシリン系などは原薬の大半を中国に依存している。

◆ 政府は2022年12月、国民の命を守るのに必要な抗菌薬について、半導体や航空機部品などとともに、経済安全保障推進法により生産や備蓄を支援する特定重要物資に指定した。

 新型コロナウイルスのワクチン開発では、緊急事態に対処するための技術の重要さが浮き彫りになった。30年までに抗菌薬を自給できる体制を整える計画だ。

◆供給不安定化

 米中対立など緊迫化する国際情勢を背景に、半導体や天然ガスなど重要物資の供給が世界中で滞る事態が起きている。尖閣諸島沖で中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突した10年の事件後、中国政府はレアアース(希土類)の日本への輸出を規制した。

 抗菌薬の原薬の供給が不安定化する恐れもあり、厚生労働省幹部は「手術や治療ができなくなり、多くの患者が亡くなる事態が起きかねない」と危惧する。

 19年にはペニシリン系とは別の抗菌薬「セファゾリン」の供給が滞った。中国の環境規制が強化されて工場の操業が止まったことなどが原因だった。東京ベイ・浦安市川医療センター(千葉県)では、在庫はすぐに底をついた。代替薬もすぐになくなり、その後も薬の変更を繰り返した。当時感染対策室長だった織田錬太郎医師は「抗菌薬がなければ手術はできない。手術を止めまいと必死だった」と振り返る。

 この一件は、抗菌薬が特定重要物資に指定されるきっかけとなった。

 抗菌薬の安定確保は世界共通の課題だ。

◆ 米バイデン政権は医薬品の中国依存を問題視し、22年に抗菌薬など86品目をリスト化。

原薬の国産化や、◎ 日本など同盟国から調達する考えを示している。

欧州連合(EU)では21年、医薬品原薬を含む34分野を、EU外への依存度が高く代替が難しい産業領域に指定し、各国に対応を促した。

低い薬価 収益が課題

◇ 日本政府は23年、抗菌薬原薬を製造する設備の建設を支援するため550億円の基金を設けた。

◎ 同社や、塩野義製薬の子会社シオノギファーマをそれぞれ中核とする2グループが動き出している。

 ただ、製造を再開しても、利益が出なければ再び途切れる恐れもある。1990年代に国内勢が撤退したのは、薬価(公定価格)が下落したためだ。セファゾリン注射薬(1グラム)の薬価は、1978年には2960円だったが、2023年には1割弱の291円に下落している。国産は人件費や光熱費などがかさむため、中国産の数倍のコストがかかるとされる。

 北里大の花木秀明・感染制御研究センター長は「有事に備え、国内で生産を続けられる体制づくりが欠かせない。▽品目を決めての薬価の引き上げや、▽ 原材料の買い取りなど、企業が一定の収益を得られるような対応が政府に求められる」と話す。

国産を軌道に乗せるため、持続可能な仕組みづくりが不可欠だ。