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(株)日本取引所グループ【8697】の掲示板 2024/02/10〜2024/04/20

日経電子版より



日本取引所グループ(JPX)の山道裕己CEO

200兆円を動かした男――。大手証券幹部が日本取引所グループ(JPX)の山道裕己最高経営責任者(CEO)に付けた異名だ。JPX傘下の東京証券取引所が2023年3月末にいわゆる「低PBR(株価純資産倍率)改善要請」を出して以降、上場企業時価総額が200兆円超増えたことにちなむ。要請の名義人は当時東証社長だった山道氏だ。山道氏は直後にJPXのCEOに昇格したため、いわば東証社長としての最後の仕事といえる。

山道氏はどのような人物か。1955年生まれで広島県出身、77年に野村証券へ入社した。投資銀行部門が長く、2008年の野村ホールディングスによる米リーマン・ブラザーズのアジア・欧州事業買収では、部門の責任者として買収交渉やPMI(買収後の統合手続き)を担った。13年にJPXへ移り、19年の東京商品取引所買収でも交渉役を務めた。

投資銀行部門が長いだけあって、M&A(合併・買収)には一家言持っている。23年9月の定例記者会見では、経済産業省が同年8月末に公表したばかりの「企業買収における行動指針」が日本市場に与える影響について、米国の事例などに触れながら自身の考えを生き生きと語っていた。

山道氏のCEO就任以降、JPXの改革は加速している。傘下の東証では上場株の望ましい最低投資額として定めていた「5万円以上50万円未満」の規定のうち、下限の5万円以上を撤廃した。企業の自発的な株式分割の動きを妨げないようにする狙いがある。

最上位のプライム市場の上場企業には25年4月から、決算情報と適時開示情報を日本語・英語同時に開示するよう義務付ける。将来は他の重要情報についても英文開示を義務化する可能性がある。



山道氏は上場企業に求めるルールについて「すぐに厳しくするということはない」と述べながらも「(今後は)きつくなることはあっても、緩くなることはおそらくない」と強調する。

東証改革の次のテーマは、新興企業向けのグロース市場だ。国内の新興企業の上場はかねて創業者やベンチャーキャピタル(VC)が利益を得るためだけの場といわれてきた。規模が小さいまま上場する「小粒上場」が多いため、資金力のある機関投資家の投資対象になりにくかった。上場後に市場で資金調達して設備投資や人材採用を拡大し、成長を加速する好循環を生み出せていない。

市場区分の見直しに関するフォローアップ会議では、グロース市場の上場維持基準を引き上げる案が浮上している。上場から10年後に適用される「時価総額40億円以上」の現行基準を見直し、10年後の時価総額を100億円以上に引き上げたり、新たに3年後や5年後に達成すべき時価総額基準を設けたりする意見が出ている。

もっとも、基準をどの程度引き上げるのか、基準に抵触した企業の受け皿をどうするのかなど、解決すべき点は多い。基準の引き上げで上場が難しくなれば、VCの投資活動にも影響が出かねない。国内のスタートアップの資金調達環境などを見極めながら慎重に進めなければ、市場や政府関係者の反発を招き、ルール改定が骨抜きにされる恐れもある。

株式市場の魅力が高まれば、銀行による間接金融から市場を通じた直接金融へのシフトが一段と進み、国内経済全体の底上げにもつながる。日本市場を背負う立場として、JPXの改革に終わりはない。

(和田大蔵)