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清水建設(株)【1803】の掲示板 2022/08/21〜2023/08/15

建設分野における生産性向上に向けたDX(デジタルトランスフォーメーション)推進の取り組みは、地味ではありますが、力強く、着実に進んでいるようです。

【BIM/CIM未来図】設計合理化に挑む/清水建設  (2022年12月5日 建設通信新聞配信記事より)

清水建設が、BIM/CIMを活用した土木設計プロセスの合理化に向け、力強い一歩を踏み出した。オートデスクのBIMソフト「Revit」を軸に、3次元鉄筋モデルの構造細目に対する照査や、配筋施工図の作成を自動化するシステムの開発を完了し、ジャカルタの地下鉄工事で本格運用に挑む。「現場関係者が共有の思いを持ち、一丸となって前に進んでいる」と話す土木技術本部副本部長の荒木尚幸氏と、イノベーション推進部先端技術グループの松下文哉氏に、システムの狙いと効果を聞いた。

――開発のきっかけは
荒木 土木構造物の設計作業では、配筋施工図の作成にとても時間と労力をかけている。近年は配筋や鉄筋の量が多く、より過密化している。国内では配筋図が7000枚を超えるような現場も少なくない。構造物が異なれば、たとえ似たような形状でも、すべて一から図面を書くことが常態化している。これら一連の作業を自動化できないかと、以前から考えていた。
松下 振り返ればホーチミンの地下鉄工事に配属された新入社員のころ、配筋施工図のチェックでは修正変更の多さに日々苦労しながら図面管理していた。技術部に異動になり、国内の現場でも同様の課題があることを知った。こうした現場の苦労は国内外を問わず存在し、それを改善したいという気持ちを、私自身も強く持っていた。
荒木 海外プロジェクトは設計・施工案件が多く、設計当初からBIM/CIMを活用したチャレンジがしやすい。当社が地下鉄工事を連続して受注したタイミングもあり、開発してきたシステムを本格運用し、きちんとした成果を示したいと、トライアルを決めた。実現すれば設計の生産性、さらには受注提案力の向上にもつながる。

――システムについて
松下 われわれが開発したシステムは土木構造物の設計段階において、施工図の作成から照査、図面管理までの部分を自動化するもので、作成した3次元鉄筋モデルから配筋施工図を自動作成し、部材の集計表もモデルの属性から自動算出する。このプログラムをオートデスクのBIMソフト「Revit」のアドインツールとして実装し、現場適用のフェーズに入った。鉄筋モデルを任意の断面で切り出し、容易に2次元の平面図も作成できる。
荒木 いずれは実施設計、施工、そして営業段階でも、このシステムを活用する枠組みを整えていきたいと考えている。まずはパラメトリックに入力した情報が配筋図や鉄筋量として自動化できるプロセスを、いかに円滑化するかが重要になってくる。
松下 既にボックスカルバートや駅舎の照査についてはシステムが完成しており、2次元図面(加工図)や集計表作成が出力できる状態まで仕上がっている。パラメトリックモデルの部分では、地中連続壁の標準パネルで自動化が完了し、今後は現場の工程に合わせて、床板や柱の部分も整えていく計画だ。

――導入するプロジェクトの状況は
荒木 海外では現在、マニラ地下鉄工事のほか、ジャカルタにおいても「CP101工区」に続き、9月からは「CP202工区」がスタートした。ジャカルタは施工距離1840mの地下工区となり、三つの駅舎建設とそれをつなぐ4本のシールドトンネル工事となる。まだ設計が始まったばかりで、地中連続壁の施工が動き出すのは1年後。3次元モデルから自動で施工図を作成するのは2023年7月ごろになるだろう。現地の要望をしっかりと聞いた上で、年明けから施工図の試し書きを始めたいと考えている。
松下 マニラ地下鉄工事は2次元で設計が進んでいたこともあり、後を追う形で3次元対応を進めている。既に2次元の施工図があり、それを踏まえて3次元モデルをつくり、切り出した図面が同じであることを確認している。その点でもジャカルタが、トータルでシステムを運用する初弾プロジェクトになる。
荒木 ジャカルタではBIMモデラーを集め、設計段階の最初からRevitを使っていく。作業量も相当のボリュームがあり、構造部分だけでなく、設備との取り合いも必要になり、複雑な構造物に強いRevitとの親和性が高いと判断した。当社としても、土木設計で最初から3次元設計で進めていく初のプロジェクトになる。

――現場関係者の思いは
荒木 ジャカルタ、マニラの両工事に参加する設計者は海外の経験も豊富で、設計を合理化していきたいという前向きな気持ちも抱いている。このシステムへの思いはわれわれと同じであり、これを機に3次元設計を主体的に進めていきたいという目的意識もしっかりと持っている。そうした共有の思いがあることで、一丸となって着実に前に進んでいる。
松下 新たなシステムを取り入れることで、従来のワークフローは大きく変わる。海外プロジェクトは国内工事に比べ、施工図表現の自由度などもあり、チーム関係者で意見を出し合いながら取り組みがしやすく、新たなチャレンジの場としては最適な環境だと感じている。
荒木 国内では国土交通省直轄工事で23年度からBIM/CIMの原則化が始まる。われわれのシステムは、VRやAIを使うものではなく、見た目は地味だが、現場で苦労している技術者の多くの要望を解消するものになると考えている。
松下 業界のBIM/CIM国内事例では、鉄筋モデルの大半は干渉をチェックするツールして使われている。私自身、鉄筋モデルをもっと有効活用すべきと以前から考えていた。部材属性の分類をきちんと整理したモデルを作成しておけば、修正にも対応しやすく、加工図に精度よく切り出しもできる。このシステムは国内工事にも幅広く有効活用できるはずだ。

――システムの導入効果については
松下 現場では「モデリング作業の効率化」「鉄筋ロス率の低減」「照査業務の効率化」「設計手戻りの防止」–の4点について数値目標を掲げて取り組んでいる。ジャカルタ地下鉄工事では最初から3次元設計に取り組むことから、2次元との定量的な比較検証も進めている。あくまでも目標値であるが、配筋図作成業務では2割の効率化、鉄筋ロス率は5%の削減、モデリング作業の効率化は3割を目指している。
荒木 特に照査の部分は2次元の平面図から鉄筋1本1本の加工形状を計算し、表に打ち込んでいく作業になるだけに、信頼できる技術者でなければ対応できない。工事規模が大きければ、チェックの量も増え、物理的に効率的に回すのは大変だけに、その業務量を自動化で2割低減できれば、効果としては非常に大きい。そもそも構造細目の部分をプログラム化できたこと自体も、人的ミスをなくす意味で画期的であろう。
松下 照査の自動化は、新構造形式の導入にも筋道を付けると考えている。建築では意匠のデザインパターンをいくつか用意して顧客に提示するが、土木ではそうはいかない。照査の自動化が実現すれば別の設計パターンを用意し、作りやすさやコスト削減などを総合的に判断して、構造形式を決めることが可能になる。そのためにも、設計初期段階の構造解析の部分からデータがきちんとつながることが前提になってくる。
荒木 BIM/CIMの導入により、最も恩恵を受けるのは設計領域ではないかと私は考えている。モデリングの前段階となる構造解析(FEM解析)から断面照査までの部分については、既にマニラ地下鉄工事でシステムづくりに着手しており、これによってより木目の細かい合理的な設計への道筋を整えることができた。
松下 システムは、構造解析から断面照査を経て、その数値情報から断面の最適な仕様を決め、それを基にパラメトリックモデルをつくり、Revitへとデータをきちんとつなげることを想定している。この枠組みが整えば、構造解析から断面照査、モデリング、施工図作成までの効率的な流れで設計ができる。
荒木 構造解析については駅舎の土圧や荷重など、駅舎を輪切りにして設計を進めるため、どうしても安全に配慮して設計してしまう傾向がある。そこをFEM解析の結果に基づき、3次元設計を進めることによって、必要な補強を必要な場所に施す合理的な設計を実現できる。断面照査はモデルが複雑で、解析データの量も膨大であり、そこを自動化にすることにより、最適な条件を設計へと流せる。

――今後の展開については
松下 自動で集計表が作成した後、その情報を踏まえて鉄筋を注文する部分までの流れを意識しながら、新たなプログラムをつくっている。そうなれば設計変更にも容易に対応でき、例えば開口部の位置が変われば、連動して注文の数値も変わる。その先の施工管理や、加工機への連携も視野に入れながら、トータルシステムとして開発を進めていく。
荒木 設計量が多く、しかも施工が複雑だと図面作業はどうしても遅れがちになる。鉄筋の発注が間に合わないから、ある程度の図面で先行発注せざるを得ないケースは多く、それが鉄筋ロス率の増加にも跳ね返ってくる。早く確定した情報を施工側に示すことが大切で、かつ集計表などがきちんとしていれば、それだけでロス率は大幅に低減できる。