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日本の銀行、いよいよ「預金のマイナス金利」に踏み込むかもしれない…!?

(文 小野 一起) 1929年の世界大恐慌、日本の不良債権問題、リーマンショック…。かつての経済危機では、いずれも株式市場の急落が、実体経済の悪化に先行して危機を顕在化させてきた。しかし、今回のコロナショックでは、3月に急落局面があったものの、足元の日経平均株価は2万2000円を上回る局面もあるなど、不気味な小康状態を保っている。

 これは「これからくる暴落」の予兆なのか、それともこのまま安定を保っていられるのか、そもそも銀行など金融機関はこれから生き残っていけるのか――。

 今回、新作小説『よこどり 小説メガバンク人事抗争』で銀行の在り方について独自の切り口で迫った作家の小野一起氏が、メガバンクの現役幹部、元日銀幹部など金融の最前線を知る銀行員たちと緊急対談。「日経平均株価は1万4000円台が妥当」「底値はまだまだ先にあるかもしれない」「銀行が『預金のマイナス金利』に踏み込む可能性が出てきた」など……銀行員たちが次々と驚くべき本音を明かした。

日経平均は「1万4000円台」が本来の姿…!?
 小野 コロナショックを分析する際に、非常に不可思議なのが市場、特に株式市場の動きです。これまでの経済危機は株式市場の急落が危機の発信源でした。しかしコロナショックでは、市場は不気味な小康状態を保っています。

 過去の経済危機を考えると、1929年の世界大恐慌ではニューヨーク株式市場の大暴落から経済危機が勃発しました。1990年代後半のバブル崩壊にともなう日本の不良債権問題も、東京株式市場が低迷。不動産バブルに踊った流通、建設、不動産、そして銀行の株が売りを浴びた。

 しかし、今回のコロナショックでは、3月に一度、急落を演じた後は急速に回復、安定した水準での取引が続いています。いったいこれはなぜなのか。皆さんは、どう分析していますか。

 メガバンク部長A(50代) プロのエコノミストの人たちは、コロナショックが実体経済の深刻な悪化を招き、銀行の経営を揺さぶる金融崩壊を招きかねないと懸念しています。

 企業収益の先行きは簡単には見通せませんが、コロナショックが大企業の利益に与えるダメージを考慮に入れると、本来は日経平均株価はせいぜい1万4000円レベルが妥当な水準だと思います。そう考えると、日経平均株価が2万円2000円を上回る水準は、とても正当化できません。

 つまり、現在の株式市場はマーケットの価格形成機能が狂って誤ったシグナルを発しているのか。それとも、エコノミストの分析が間違っているのか。結論はどちらか一つです。

これから来る「深い下げ」
 小野 私は市場が、狂っているように感じます。世界中の政府が財政出動を実施し、米連邦準備制度理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)、そして日銀も含めた世界中の中央銀行が、大胆な金融緩和に乗り出しました。もちろん、こうした政府と中央銀行の下支えが、市場を安定化させている側面はあるでしょう。

 しかしIMFが2020年の世界の成長率をマイナス3%と予測するなどコロナショックの破壊力を踏まえると今の株価水準は楽観的だと感じます。

 メガバンク経営企画担当B(40代) そう単純に言えない部分があるのが市場の難しいところです。例えば、ニューヨークのダウ30種平均でいえば、構成銘柄にアップルやシスコシステムズ、IBM、インテルなどIT関連企業が多数含まれています。こうした企業は、「ポストコロナ」、「ウイズコロナ」においてビジネスのオンライン化、デジタル化が進むことで、ますます収益力を高める可能性があります。

 つまり、アメリカを代表する企業がコロナショックでますます力を付けることを株価が織り込んでいるともいえます。つまり今の株価水準は、「アフターコロナ」で通常の社会活動が回復した後の企業収益を反映して形成されているとも考えられるわけです。

 小野 コロナショックを受けた3月の急落局面では、ヘッジファンドや内外の機関投資家の多くが、保有株式を売り浴びせる側に回りました。一方、回復局面で買いに回ったのは、個人や、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)や日銀などだと聞いています。これは今まで何度か経験してきた個人投資家が損失を被るパターンのようにも感じられます。

 実際、「賢人」と称されるウォーレン・バフェット氏が率いるバークシャー・ハザウェイが、航空や金融など米大手企業の株式を次々に売却したことにも注目が集まっています。バークシャー・ハザウェイは、リーマンショックで株式市場が急落した局面で「悲観は友、陶酔は敵」という言葉を実践して、ゴールドマンサックス株などを買い進めました。結局、底値で金融株を買ったことで、同社は巨額の利益を手にすることになり名声を高めました。

 コロナショックを受けて、バフェットが金融や航空の株を売って手中にした現金を持ったまま静観しているのは、これからさらに深い下げ局面が来るという予言のようにも感じられます。

 メガバンク部長A ただ、いまだにプラスの材料に反応して株価は値を戻していますよね。例えば、「緊急事態宣言が解除される」となると株価は上がる。多くの投資家が「株価が上限だ」と判断すると、悪い材料にしか、市場は反応しなくなる傾向があります。つまり、市場は、まだ株価に上昇余地を感じているとも言えるわけです。

 元日銀幹部C(50代) 今回は、世界中の政府や中央銀行が大盤振る舞いをしたことが大きいと思います。そもそも、株式市場は不確実な状況を嫌います。かつてないほど企業収益の状況の見通しが立たない中で、今の日米の株価水準は本当であれば不自然です。

 FRBは投資不適格のジャンク債まで買い入れ対象とし、日銀は上場投資信託(ETF)の買い入れを倍増させて12兆円としました。リーマンショックなど経済危機のレッスンが良い教訓となり、政府も中央銀行がいち早く行動した意味は大きい。このことが市場が荒れ狂うことを抑え込んでいると言っていいでしょう。

「底値」はずっと先
 元日銀幹部C(50代) ただ、これまでの金融危機では、実体経済の深刻な後退や株式市場の急落などの動きが先にあって、これを受け止めて政府や中央銀行が動き出した。このため良くも悪くも、政府が大胆な対策を打った時に危機が最終局面となり、ある意味「底打ち」のメッセージが出ていた。

 例えば、1990年代後半からの日本の金融危機の局面では、政府がりそなグループに公的資金注入した2003年が、株価が底値を打ったタイミングと重なっています。

 ただコロナショックの場合、政府と中央銀行が早く動いた分、ずっと先に底値が形成される可能性もあって、政府や日銀が、危機対応で実施した投資や融資で損失を抱え込むリスクが懸念されます。

 これが中長期的に政府の財政や中央銀行の信用を揺るがすことがないのか心配ですね。

円高が心配だ
 メガバンク経営企画担当D ご指摘の点もよく分かりますけど、今、日銀は本音では、「ほっとしている」でしょう。利下げの上に量的緩和の急拡大に踏み切ったアメリカのFRBや欧州のECBに比べると、日銀の緩和はマネーの供給量では、明らかに力不足です。 

 日銀は、マイナス金利をすでに導入している上に、量的緩和の目標の年間80兆円の旗は上げたままの状況で、実際には買い取り額を20兆円程度まで下げて、量的緩和の規模を縮小していた。それなのに目標額の80兆円の枠を「撤廃」と言われても、ピンときませんよ(苦笑)。正直、国債の買い入れ余地がない中、ETFの倍増ぐらいしか打ち手がなかったのでしょう。

 本来なら、マネーの供給量を大幅に増やしたドルが安くなり、1ドル=100円を大幅に切る水準まで円高が進んでもおかしくない。こうなると日銀は無理矢理にでも追加の手を打つことを迫られます。

 それが1ドル=107円前後の水準で、落ち着いている。日銀としては土俵際で踏みとどまれている感じだと思います。

 元日銀幹部 確かに、日銀が円ドルの為替相場に関心を寄せているのは事実です。官邸も、日銀との関係では為替を注視している。為替が円高に振れると、株価も連動して下がる相関が続いています。トヨタやパナソニックなどのグローバル企業の海外子会社を連結して収益を円換算した時、円高になると利益が目減りするからです。

 もし、為替が1ドル=100円を突破するような円高に振れた時には、マイナス金利の深掘りや、10年物国債の金利水準を0%前後に誘導するイールドカーブコントロール(YCC)の誘導水準をマイナスに引き下げる、とか未踏の領域に踏み込むしかないでしょう。

 そうなると銀行融資の利ザヤがますます縮小して、経営が一段と苦しくなるという副作用が出ます。これはこれで金融崩壊を招きかねません。

銀行が、われわれの預金に「マイナス金利」を…!?
 元日銀幹部 銀行は預金金利をマイナスにはできません。いや、ひょっとするとカネ余りの現状を踏まえれば、預金の金利をマイナスにすることは本気で検討しなければいけなくなるかも知れません。

 そういう意味では、政府には財政支出でもっと頑張ってもらいたい。政府が5月下旬に閣議決定した第二次補正予算でも、国の直接支出を示す「真水」は日経新聞の報道では33兆円。嘉悦大学の高橋洋一教授の分析ではわずか10兆円です。

 アメリカに比べれば、財政出動の規模が小さ過ぎます。10年物国債より年限の短い国債は、マイナス金利ですから、発行元の国が借金すればするほど、利益が出る状態です。日銀も枠を撤廃して、国債を買うと表明しているわけですから、もっと思い切って国債を発行して、財政支出をどんどん拡大して実体経済の落ち込みをカバーしてもらいたいです。

 小野 預金金利がマイナスとなれば、われわれの銀行口座の貯金の残高が、どんどん減っていくことになります。理論上はお金が消費や投資に回るという考え方もありそうですが、国民の反発は凄いでしょうね。

 メガバンク部長A 預金は集まり過ぎて、われわれは運用に苦しんでいます。本音でいえば、預金のマイナス金利はやりたいですよ。そもそも企業向けの貸出金利が、こんなに下がっているわけですから、調達金利である預金金利を下げないと利ザヤが確保できません。

 ただ国民の反発は強くて、政治的には絶対に無理でしょう。やはり、預金にはゼロ金利フロアーという壁があると考えています。

警戒せよ!
 メガバンク部長A そもそも三菱UFJ銀行が2020年10月からの新規開設口座で、2年間取引がなかった口座を対象に年間1200円の手数料を取る方針であると新聞で報道されただけで、大騒ぎになりましたからね。

 海外では口座管理手数料を取るのは普通です。われわれは、預金の決裁システムの構築に多額の設備投資をしている。これまでは融資で儲けた分で、こうした資金を賄ってきたわけですが、融資の利ザヤが縮小している以上、個人の決裁システムは、それはそれとして収支を確保したいのが本音です。

 小野 コロナショックの中、株式市場が小康状態なのは、中央銀行の金融緩和と政府の財政支出の支えらえている面が大きい。ただ、企業業績を中心に実体経済の一段の悪化が鮮明になった時、3月のような急落局面が再び訪れるリスクには十分に警戒する必要があるでしょう。

 その時、政府や中央銀行に、どんな手が残されているのか、十分に注視しておく必要がありそうです。

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