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それでも日本人が「通勤地獄」から抜け出せない残念な理由

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あっという間に満員電車が復活
(文 野田 隆) 緊急事態宣言が解除され、多くの人は日常生活に戻りつつある。それに伴い、巣ごもり生活や自宅待機の日々から解放されるのと引き換えに、通勤・通学も再開され、都心部を中心に満員電車が復活しつつある。

 先日までの閑散とした電車内であれば、ソーシャル・ディスタンスを守るため、「人と間隔をあけて座る」という暗黙の了解が十分機能していたように見えた。けれど、通勤ラッシュが始まれば、そんな新ルールはあっさりと崩壊してしまう。

 もはや私たちは、このままリスク覚悟で通勤せざるを得ないのだろうか。同時に、この状況に対して、鉄道会社は何の対策も立ててくれないのだろうか。

 少なくとも鉄道会社は、戦後の高度経済成長時代から半世紀ほどの間、この「通勤地獄」解消のため、涙ぐましい努力を重ねてきたのは事実だ。

 一定のサイクルで旧型車両を新型車両に置き換える。何回かの重大事故を教訓に安全装置も改良を重ねる。その結果、過密ダイヤにもかかわらず、重大事故は激減した。

 沿線人口の増加に伴い、車両編成も増やした。半世紀前には4両編成だった路線も、6両、8両、そして今では10両編成も当たり前になった。

 各鉄道会社の複々線化も進んでいる。列車本数を増やし、急行や快速などの優等列車の時間短縮を図ることで、混雑率も若干ではあるけれど減少した。付け加えると、通勤車両の冷房化も進み、夏場は地獄だった車内もずいぶん快適になったように思える。

通勤スタイルは昔も今も変わっていない(Photo by iStock) 通勤スタイルは昔も今も変わっていない(Photo by iStock)

通勤は辛いものという思い込み
 こうしてみると、鉄道会社は長きにわたって出来る限りの対策は講じてきたことが分かる。しかし、「通勤地獄が解消された」と思っている人は、むしろ少数のはずだ。それは一体、なぜなのだろうか。

 ひとつには日本人の生活水準が向上したことで、通勤車両のグレードアップもそれほど目立たなくなり、ありがたみを感じにくくなったことが挙げられる。

 また、鉄道の進化とは対照的に、通勤スタイルそのものが大して変化していないことも要因だ。便利になればなるほど、大都会の特定の路線に通勤客が殺到しては、通勤地獄の解消とは程遠くなってしまうのも無理もない。

 つまり、「企業の始業時間がほぼ同じで、勤務地が都心にあること」。その一方で、「標準的なサラリーマンにとって、郊外に一戸建てマイホームを持つことがステイタスであった時代の影響が、かつてほどではないにしても、今も続いていること」。結局、この2つが、今なお日本人が通勤地獄から抜け出せない原因ではないだろうか。

 さらにそれを後押ししているのが、「一億総中流」といわれた時代から続く、横並びの意識や、「通勤は辛いものであって、往復の電車でゆったり過ごすことはありえない」という固定観念だ。

 残念ながら、耐え難きを耐え、忍び難きを忍ぶ通勤、すなわち「痛勤」や「酷電」という言葉で表現された昭和の通勤スタイルからあまり変化していないのが、今の日本の現状と言えるのかもしれない。

通勤にも利用される小田急ロマンスカー 通勤にも利用される小田急ロマンスカー

「ゆったり座って通勤したい」人の増加
 とはいえ、通勤を取り巻く環境を見ると、悲観的な話だけではないようだ。新型コロナに関わらず、「ゆったり座って通勤したい」というニーズは少しづつ、しかし確実に通勤客へ浸透していると筆者は考えている。

 少し歴史を遡ると国鉄末期、特急列車の回送を利用し、ホームライナーを走らせて増収を図ったところ、大好評。これが「ゆったり座って通勤したい」というニーズの開拓となった。そうして大都市の近郊区間でホームライナーが盛況となると、私鉄でもロマンスカーを観光目的一辺倒から通勤利用にも開放、人気を集める。

 ひとつには、特急列車は、「特別」急行列車という“ステイタス(特別感)”がなくなり、通勤で利用しても違和感がなくなったことも影響している。また、行楽の移動手段が鉄道一辺倒からマイカーや観光バスにも広がり、観光特急列車の乗客が減り始めたことも、通勤客の利用を促すことにも拍車をかけた。

 こうしたワンランク上の車両で通勤することは、JRの普通列車グリーン車運転区間の拡大にも見て取れる。

 かつて、国鉄の普通列車用グリーン車は富裕層の多い、湘南電車(東海道線東京~熱海)と横須賀線に限られていた。しかし、横須賀線と総武快速線が直通運転を開始して、千葉エリアにもグリーン車が走り始めたところ、当初の予想を裏切り、グリーン利用客が順調に伸びていったのだ。このため、「痛勤」を忌避する人が湘南地区以外でも大勢いることが分かり、以後、北関東エリアにもグリーン車連結列車は広がっていく。

 通勤客の高齢化も影響しているかもしれないが、少なくとも通勤に追加料金を払うことに抵抗を示さない人が増えたことは、こうした流れからも読み取れる。私鉄各社の座席指定通勤ライナーの人気も相まって、今後も「ゆったり座って通勤したい」という人の増加を期待したいところだ。

特急「はるか」は通勤定期があれば300円で乗れるように 特急「はるか」は通勤定期があれば300円で乗れるように

鉄道と働き方の両面で改革を
 連日、テレビなどでは通勤の様子がクローズアップされている。ソーシャル・ディスタンスの意識が日増しに強まる中、満員電車内の感染リスク懸念が止むことはないだろう。では今後、鉄道会社にどんな取り組みを期待し、通勤する人たちの在るべき姿として何が期待されるのだろうか。

 大都市圏では、列車の増結や増発は、すでに飽和状態で無理な路線が多い。例えば、首都圏のJR中央線では快速電車を中心にグリーン車2両増結する計画だが、ホームの延伸工事の問題があって、予定が大幅に延びている。複々線化も小田急の工事完了後、あとの路線は望み薄の状況だ。

 となると、鉄道会社の取れる道は、通勤客を分散させるか、減少させるかだ。

 分散化の例としては、東急田園都市線の混雑解消のため、二子玉川から分岐する大井町線を有効活用して、渋谷経由で都心へ向かう通勤客を分散化させる試みがある。座席指定車両「Qシート」も大井町線直通電車に設置されている(夕方の大井町始発のみ)。

 また、JR西日本では、通勤定期券を持っている乗客に限って300円で特急に乗ることができる期間限定のサービスを開始した。停車駅は限られるが、乗客の分散につながれば、「三密」の解消に少しなりともつながるであろう。

 忘れてはいけないのは、通勤客の意識改革の必要性だ。

 近年、郊外の一戸建てを捨てて都心のマンションへ引っ越し、通勤時間の短縮を図る人も増えてきている。また、鉄道にこだわらない人もいる。確かに快適で、定時運行が確保できるならバス利用も可能なはずだ。また、「テレワーク」が今後定着するか、あるいは元に戻ってしまうのかにも注視したい。

 鉄道自体の改革のみならず、社会における働き方の改革。この両面から「通勤地獄」に取り組むことで、ウィズコロナ時代の通勤事情は今よりも改善されるはずだ。

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