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「危険なリアリティ番組」量産するTV局側の事情

なぜ「リアリティ番組」は作られ続けるのか?(写真:Kevin C. Cox/GETTY) なぜ「リアリティ番組」は作られ続けるのか?(写真:Kevin C. Cox/GETTY)

 日本のリアリティ番組「テラスハウス」に出演していたプロレスラーの木村花さんがお亡くなりになった。まだ22歳の若さだった。ご家族、ご友人、そして何よりそこまで追い詰められたご本人の気持ちを考えると、やりきれない。

 筆者は「テラスハウス」を観たことがないのだが、ひとつ屋根の下に複数の男女が生活するという設定は、アメリカで2000年に放映が始まった「Big Brother」と似ている。同年に放映開始し、高い視聴率を誇った「Survivor」も屋内ではないが、離れ小島で複数の男女が生活するもので「テラスハウス」と共通する部分があった。

■多数の被害者を生んだ「過激なリアリティ番組」

 これらの番組でも、出演者が精神的苦痛を受けたという報道が出ている。視聴者からの誹謗中傷もあったと思うが、特に目立ったのは、むしろ出演者同士の嫌がらせや差別発言、ハラスメントだった。

 その様子は編集でカットされたり、舞台裏で起こったことで、視聴者には見えなかったのだが、「テラスハウス」でスタジオのメンバーがコメントし合うというのは、ある意味、そこを意図的に見せることをしていたのかもしれない。

 ほかに、問題のタイプは違うが、減量を競い合う「The Biggest Loser」の出演者には、極端すぎるダイエットに走ったせいで健康を害した人が多数出た。また、ほとんどは、番組終了後に体重がリバウンドしたそうである。彼らもまた、肉体的、精神的に辛い体験をしたのだ。

 辛い経験をしてまでリアリティ番組に出演するメリットは何か?  出演者にとっては、おそらくテレビに出られるというだけで魅力なのかもしれない。短期間であれ、多数の視聴者から応援されるのも嬉しいだろう。

 これをきっかけにキャリアアップしようという思惑もあるかもしれない。事実、それに成功した例もある。

 20代の若者の私生活に密着する「ザ・ヒルズ」でファッションアイコンとなったタレントのローレン・コンラッドは自身のブランドを立ち上げたし、共演した女性らも、テレビコマーシャルや、別のリアリティ番組に出たりした。

 歌手のジェシカ・シンプソンも、自身の夫婦生活を明かした「Newlyweds: Nick and Jessica」で人気を得て、ファッションブランドを立ち上げた。だが、今の彼女らに当時の勢いはない。むしろ、ほとんど忘れられていると言っても間違いではない。

 リアリティスターの賞味期限は、実に短い。金銭面のメリットについても同様だ。賞金や出演料をもらって大喜びしても、それはあくまで一時のこと。

 「Survivor」の優勝者には、税金をごまかして4年も刑務所入りをするはめになった人がいるし、社会階層の異なる家庭がそれぞれの妻を入れ替えて生活する「Wife Swap」の出演者の中にも、後に犯罪者となった人が複数いる。

■トランプ大統領も「リアリティ番組出身」

 リアリティ番組で長期にわたる成功を築いた人は、ごくごくわずか。そして、そのかぎられた人たちには「元から金持ちだった」という共通点がある。

 リアリティ番組の出演は、彼らの「目立ちたい」「注目を集めたい」という願望を満たすのに役立つだけじゃなく、その“ふところの痛まない投資”が、さらなる利益を生むことがある。

 一番の例は、いうまでもなくドナルド・トランプ。大物実業家の右腕になりたい人たちを競い合わせる「The Apprentice」がなければ、彼がアメリカ大統領になることはなかった。

 「You’re fired! (お前をクビにしてやる! )」と厳しく言い放つ彼の姿が、決断力を持ったリーダーであるという間違った印象を一部の視聴者に与えたのは理由のひとつだが、ほかの形でもこの番組は彼を大統領選へとつなげている。

 たとえば、マイケル・ムーアはドキュメンタリー映画『華氏119』で、放映局NBCがリアリティ番組「The Voice」に出演が決まったグウェン・ステファニーに、「The Apprentice」に出演したトランプよりも高いギャラを約束したことが彼を憤慨させたと指摘している。それがトランプの大統領選立候補きっかけだというのだ。

 また、2018年に出版されたノンフィクション本『炎と怒り』でトランプ政権の内幕を暴露したマイケル・ウォルフは、トランプがもともと望んでいたのは自分のチャンネルを始めることで、選挙はその宣伝手段だったと示唆している。

 結果的に本当に大統領になり世界一の知名度を手にした彼は、おそらく任期終了後、当初の目的に戻って何かしらの方法で「トランプチャンネル」の発信を始めるのではないか。

 アメリカを代表するお騒がせタレントのキム・カーダシアンもリアリティ番組で成り上がった。実父はO・J・シンプソン事件で彼側についた有名弁護士、育ての親はオリンピック選手を経てビジネスマンになった才人で、恵まれた環境で育った。

 彼女にリアリティ番組の味を教えたのは、お金持ち仲間のパリス・ヒルトンが主演した「シンプル・ライフ」。のちに家族の私生活を映した「カーダシアン家のお騒がせセレブライフ」がさらに人気を集め、家族自体をブランドにすることに成功する。

 以来、ソーシャルメディアで商品の宣伝をして企業から多額のギャラをもらったり、姉妹で店をオープンしたりすることから始めたカーダシアンの事業は、今や、香水、携帯ゲーム、アプリ、最近は「Kimono」と命名して論争を巻き起こした矯正下着など、多岐に及んでいる。

 今では若い頃のようにメディアに出ないものの、ヒルトンも、「シンプル・ライフ」で知名度を上げて以来、起業家として活躍を続けてきた。フィリピンには彼女のナイトクラブがあるし、コロナでどうなるかわからないが、少し前にはヒルトンチェーンとは別に彼女のホテルチェーンを立ち上げる話も出ている。海外ではブティック展開もしており、DJとしても売れっ子。香水も26種類出した。

■なぜ「リアリティ番組」が量産されるのか? 

 リアリティ番組で儲ける人を語るなら、テレビ局と製作者も忘れてはならない。ロケにお金がかからず、一般人やあまり有名でない人たちをキャストすることでギャラも安くつくリアリティ番組は、彼らにとってお手軽に稼げるありがたい存在なのだ。

 当たれば次々に新たなバージョンを作ることができるし、クオリティの高い脚本が不要なので、脚本家のストライキが起こったりした時にも強い。だからこそ、手を替え、品を替えては、リアリティ番組を作り続けるのである。

 コロナと共生する時代、その需要はさらに高まるかもしれない。撮影クルーの人数が少なくて済み、都合が悪くなればキャストも簡単に変更可能なフォーマットは、制限の強くなった撮影現場でも柔軟な対応がしやすいからだ。

 Netflixの「LOVE IS BLIND~外見なんて関係ない!? ~」の大成功も、その傾向を後押ししそうである。壁の向こうにいて顔の見えない男女が出会い、恋に落ちていく設定は、偶然のタイミングとはいえ、コロナで直接人に会うことが難しくなった現代に合っている。

 巣ごもり状態のアメリカで社会現象にもなったこの番組は、最近2シーズン目の製作にゴーサインが出た。きっとソーシャルディスタンシングや除菌などが徹底された現場で撮影されることになるのだろう。

 前述したようにリアリティ番組の出演者にトラブルはつきもの。コロナ対策はもちろんのこと、出演者たちの心の健康への対策も、しっかり行ってくれることを願うばかりだ。それは、たとえコロナの脅威が消えてからも、ずっと続けてほしいと思う。

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