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無利子の「コロナ融資」、資金使途違反は一括返済も?《楽待新聞》

(写真:不動産投資の楽待) (写真:不動産投資の楽待)

前回の記事では、日本列島が「コロナショック」に揺れる今、不動産融資の現場で何が起こっているのかについて紹介した。一部では融資流れの案件が増えるなど金融機関の姿勢が厳しくなっているという傾向もあり、今後の融資情勢についても投資家の多くが悲観的な見方をしていることが分かった。

そんな状況の中、不動産投資家が注目しているのは、政府が推進しているコロナ対策の「緊急融資」だ。現在は国や政府系金融機関、地方公共団体などが中心となり、コロナの影響でダメージを受けた中小・小規模事業者向けの資金繰り支援策を打ち出している。実質無利子など好条件で資金調達できる制度も多く、全国的に申し込みが殺到しており、政府は7日に決定した緊急経済対策で民間の金融機関が実質無利子・無担保の融資ができる仕組みも盛り込んだ。

これらの緊急融資が不動産賃貸業も対象になるのかどうかは、投資家にとって重要なポイントといえる。そこで今回は、日本政策金融公庫の「新型コロナウイルス感染症特別貸付」、信用保証協会の「セーフティネット保証」など、各制度の概要を確認し、実際に申し込んだ投資家たちの意見を紹介していきたい。

■「実質的に3年間無利子」

まず、日本政策金融公庫が取り扱っている「新型コロナウイルス感染症特別貸付」。コロナの影響で業績が悪化した事業者向けの資金繰り支援制度で、一定の条件を満たせば実質的に無利子・無担保の融資となる点が特徴だ。

対象は直近1カ月の売上高が5%以上減少した事業者で、限度額は6000万円。当初3年間は基準金利(1.36%~1.55%)から0.9%の引き下げを実施する。返済期間は設備資金が15年以内、運転資金が20年以内。いずれも5年以内の据え置きが可能で、その間は元本返済の負担がない。

さらに売上高の減少率が大きいなど一定の要件を満たせば、利子補給によって当初3年間は3000万円まで実質的に無利子となる。

制度の対象に不動産賃貸業も含まれるのか公庫に確認すると、「特別貸付に業種の縛りはなく、不動産賃貸業も対象になる。直近1カ月の家賃収入が前年または前々年から5%以上減少していれば基本的には審査の土俵に乗るが、実際に家賃収入が減少していることが要件で、『これから下がりそう』という見込みだけでは対象にならない」とのことだった。

■6000万円の申し込みで1000万円

この制度で運転資金の融資を申し込んでいる不動産投資家は多いが、審査ではどのような点が重要視されるのだろうか。実際に特別貸付で融資を受けたという不動産投資家に話を聞くことができた。

「3月下旬に公庫と面談して、数日後に回答が来ました。私は運転資金6000万円で申し込んだんですが、結果は1000万円で、3年間据え置きの10年という条件でした」

総投資額6億円で、アパート9棟を所有する愛知県のFさん(30代男性)はそう語る。「私の場合は昨年物件を購入したこともあって、不動産賃貸業単体の売上高は前年同期比より上がっていたんです。ただ、別の事業がコロナの影響で打撃を受けて、法人全体ではマイナス11%だったので申し込みました。事前に決算書や試算表は送っていたので、面談は15分ぐらいで終わりました」

なぜ、6000万円という申し込みに対して1000万円という結果だったのだろうか。

Fさんは「通常の融資は資産背景や返済能力が重視されますが、公庫の担当者と話して感じたのは、この緊急融資は人件費やテナント代など固定費が大きい事業者、つまり『売上が下がると確実に赤字になる』という人の方が下りやすい」と分析。「私の場合は公庫からすれば『別事業の売上がゼロになっても不動産賃貸業の収入があるし、固定費もそれほどかからないですよね』という理屈で、その結果として1000万円までしか伸びなかったと考えます」

■6000万円引いた投資家も

Fさんの周りでは、この特別貸付で運転資金を引いた人は複数存在するといい、「不動産賃貸業単体の法人で、公庫から3000万、保証協会から3000万の計6000万円引いた人もいる」とのこと。

「例えば物件を売却したとすれば家賃収入自体は下がるので、決算書と試算表で減少率は示せるし、あとはある意味、持っていき方次第ですよね。『物件の近くの会社で派遣切りがあって今後退去が増えそうだから、サービス強化のための資金や物件バリューアップの費用がこれぐらい必要』というような目的であれば、コロナ対策の経営戦略ということになりますから」

売上高の減少がコロナの影響かどうかという判断は難しいが、楽待新聞編集部が公庫に確認したところ「エビデンスに関しては申込者の会計処理の方法などによってケースバイケースの部分があり、試算表などをチェックすることもあれば、電話のみの確認もある。コロナの影響でダメージを受けている方々のためにできるだけスピーディーな対応をしたいと考えており、確認のために毎回書類を持って来店するような負担は減らしていく方針」ということだった。

■物件購入にも使えるのか?

緊急融資の資金使途は運転資金と設備資金が対象になっているが、好条件の低利融資を引ける可能性があることから、これを新たな「投資」に活用しようと画策する人がいることも事実だ。しかし、あくまでも制度の目的はコロナでダメージを受けた事業者の資金繰り支援であり、新たな物件の購入費用に充てることは難しいのが現状といえる。

「私の周りでも新規物件の購入目的で4、5人公庫に打診していますが、成功した人は1人もいないですね」

前回の記事で紹介した神奈川県の会社員Mさんは「『実質無利子』という言葉に飛びついてとりあえず申し込んでいる人もいるみたいですが、レジ物件だと急に退去が増えるということも少ないし、融資の妥当性をアピールするのは難しい」と指摘する。「例えば『コロナの影響で賃貸が決まりにくくなっているので、経営を安定させるために多角化を図りたい』といった方向性で打診している人もいますが、よい回答は得られていないみたいです」

■使途流用の場合は「一括返済」も?

仮に運転資金の名目で借り入れた融資を新規物件の購入費に充てた場合、ペナルティなどはあり得るのだろうか。

公庫に確認すると、「約束とは別の使途に流用したことが判明した場合、資金使途違反として一括返済を求める可能性はある」という回答。「例えば運転資金として調達した分の余剰資金を別の使途で使うといったことも制度上認めていない。もし違う使途で使うつもりなのであれば、それをしっかり申し出てほしい」ということだった。

実際に、制度の主旨から逸脱した資金使途については現場の担当者も敏感になっている様子だ。

神奈川県でアパートの建売会社を経営し、個人でも不動産投資をしているGさん(50代男性)は「本業の売上がコロナの影響で20%以上下がったので公庫に緊急融資を打診したんですが、遠回しに『物件購入資金じゃないですよね?』と確認されました。私が不動産投資をしていることは決算書を見れば分かりますから。普通はこんな条件で融資を引けることはまずないので、買いたい物件の頭金の一部に充てるといった使い方を相当警戒していたように感じました」と振り返る。

「私は運転資金3000万、設備資金3000万で申し込んだんですが、設備資金の方はゼロ回答でした。やはりそれが売上の回復につながるかどうか、という点をシビアにみられましたね。担当者とやりとりをしている限りは、そもそも大家業にはあまり馴染まない制度なのかなぁというのが印象です」

■コロナの影響が大きいエリアかどうか

公庫は支店によっても融資方針が異なることで知られる。今回の特別貸付でも、融資相談の時点で支店のエリアがどの程度コロナの影響を受けているか、という点が審査に関係してくる可能性はある。

新築アパートや太陽光、サービス付き高齢者住宅などを所有する楽待コラムニストのchisatoさんは、制度スタートの翌日に地元の公庫へ相談に行ったという。「法人全体の売上はプラスだったんですが、小売販売事業の売上がアジア向けの販売が止まった影響で30%以上減少したので、とりあえず相談してみたんです」

しかし、担当者の反応は芳しくなかった。「当時は私のエリアではコロナがそれほど大きな問題になっておらず、『本当にコロナの影響なんですか?』と疑われて…。最終的には一般貸付の方を提案されました。一般貸付なら基準金利なので、緊急融資のような好条件では受けられない。正直、もう少し後に相談に行っていたら反応は違ったかな、という気がしています」

■面談まで1ヶ月待ちも

コロナの影響が日に日に拡大する中、公庫には特別貸付の申し込みが殺到している様子で、エリアによっては「面談まで1カ月待ちと言われた」といったような声も聞かれる。その分、一部の支店では一般の投資用不動産融資には手が回らない状況になっているようだ。

今まで公庫の融資でアパート1棟と戸建2戸を購入しているという北海道の会社員Hさん(30代男性)は「以前は面談まで1週間ぐらいだったんですが、今回商業ビルを持ち込んだら面談まで1カ月かかりました。担当者によると、『飲食系の事業者からの緊急融資相談が増えていて、対応が追い付かない。借り入れ希望者が急増している分、一般融資の審査基準も今までより厳しくなっている傾向がある』と話していました」

3月下旬に700万円ほどの中古戸建を持ち込んだという埼玉県の公務員Kさん(20代男性)も「『今は緊急融資が殺到していて、審査についても時間をいただいています』と言われました。雰囲気的に投資用不動産は二の次という感じで…」と振り返る。「担当の方によると、不動産の方は融資が出にくかったり、融資期間が延びなかったりするケースも増えているという話です。私も以前は最長20年と言われていたんですが、今回は『出せても10年』と言われましたね」

次に、信用保証協会が借入債務を保証する「セーフティネット保証」などの制度について紹介する。

信用保証協会とは、中小企業や小規模事業者が金融機関から融資を受ける際に保証人となる公的機関。事業者は利息のほかに「信用保証料」を払う必要があるが、返済が滞った場合に保証協会が残債を代位弁済するため金融機関側の貸し倒れリスクが低減され、融資審査に通りやすくなるというメリットがある。

セーフティネット保証は、売上が減少している事業者の資金繰り支援措置として、信用保証協会が一般保証(最大2億8000万円)と「別枠」で借入債務を保証する制度。認定区分は1~8号があり、今回のコロナ対策ではセーフティネット保証4号と5号が対象となる。

4号は全業種が対象なのに対し、5号の対象は指定された不況業種のみ。保証割合は4号が100%、5号が80%で、認定基準も4号は「売上高が前年同月比20%以上減」、5号は「売上高が前年同期比5%以上減」という違いがある。

また今回は、通常保証やセーフティネット保証とさらに別枠の「危機関連保証」が初めて発動されている。危機関連保証はリーマンショックや東日本大震災のような危機に対応するため2018年に創設された保証区分で、全業種を対象に100%を保証。認定基準は「売上高が前年同月比15%以上減」となっている。

保証料率や保証期間など詳しい条件は各信用保証協会によって異なり、利子補給や保証料負担などの優遇策を設けている自治体もある。東京信用保証協会に確認すると、「東京都の場合、保証期間はおおむね運転資金10年以内、設備資金15年以内で、どの制度も10年ぐらいは取れるケースが多い。保証料については都の制度で全額補助が可能なので、実質的にはゼロになる」という説明だった。

不動産賃貸業も対象になるかという点については、「セーフティネット保証と危機関連保証は全業種が対象で、5号も指定業種に『貸家業』が含まれており、不動産からの家賃収入を売上として申告している人であれば対象にはなる」という回答。「ただ、あくまでもコロナの影響で売上が減少した人のための制度。例えば審査の過程で、そもそもコロナの前から退去が決まっていたと判断されるようなケースだと融資が難しくなる可能性もある」という。 

■公庫の特別貸付より「引きやすい」?

信用保証協会のセーフティネット保証について投資家に話を聞いていくと、「公庫の特別貸付に比べると融資が出やすい」という声が多く聞かれる。前出のFさんは「私の周りでは運転資金としてすでに20人以上受けている」と語り、chisatoさんも「付き合いのある地銀にセーフティネット保証5号で相談したんですが、『融資条件が緩いのでご融資しやすい状況です』と言っていて、融資をしたがっているような雰囲気がありました」と振り返った。

保証協会が100%または80%を保証する制度は、金融機関にとってみれば貸し倒れのリスクを抑えられるため、通常に比べて融資をしやすいという傾向はあるようだ。

2017年までメガバンクに勤務していた投資家SAさんは「私も銀行員時代、こういった危機で保証枠が広がった時は、対象となる可能性のある担当先にはほぼ全て申込書を渡し、「こういう時勢なので該当するならとりあえず申し込みましょう!」と勧めていました。100%保証なら銀行側はノーリスクなので、融資を伸ばすには絶好のチャンス。制度を活用して顧客の役に立ち、銀行側も利益を得られるので、基本的にはどの金融機関も積極的に取り組むはずです」と語る。

地銀で支店審査部門の管理職を務める現役銀行員で、不動産投資家でもあるFP大家さんは「今のように不動産価格が下落する可能性がある局面の場合、金融機関としては担保評価が落ちることを懸念するので投資用不動産への融資には腰が引けてしまう部分があるんです。ただし100%保証の制度であれば、万が一の時には保証協会が代位弁済してくれる仕組みなので、稟議でもそれほど慎重にチェックしなくてもいいという面は実情としてあります」と語る。

■8000万円を物件購入に?

金融機関側が融資に前のめりになった結果、その資金が本来の目的と違う形で使われることにつながっているという情報も聞こえてきた。業界に詳しい東京都の不動産コンサルタントはこう語る。

「九州地方の不動産会社に聞いたんですが、地銀の方から『議会で3年間無利子の融資制度が決まりました』と連絡があったそうなんです。保証料を県が全額補助して、市が3年間全額利子補給するという内容。実際に売上が下がっていたその不動産会社は『すごい条件だ』と即申し込んだところ、地銀からは『融資期間10年で8000万円いけます』と言われたとのこと。地銀の方がかなり貸したがっているような雰囲気だったみたいです」

問題はその8000万円の使い道だ。

「その不動産会社は『なかなか8000万円を無利子で借りられることなんてないから、収益物件の購入費用に充てようかな』と言っていました。そういう使い方がいいのかどうか分かりませんけど…。銀行側がどんどん融資を出すので、そうやって本来の制度目的と別の使途で使おうとする不動産会社はけっこう増えているのではないかなと感じています」

名目と別の使途で使った場合のリスクについて東京信用協会に確認すると、「別用途で使った場合は保証条件違反としてペナルティもありえる。物件購入資金であれば担保も含めて審査する必要があるので、資金使途は明確にしてほしい」ということだった。

■正しい使い道で
紹介してきた通り、コロナ対策の緊急融資は通常時より有利な条件で引くことができ、収入の下がった不動産投資家が運転資金として融資を受けているケースは多い。一方、本来の資金使途と乖離した形で新規の物件購入などに活用した場合はペナルティを受ける可能性もあり、正しい使途について明確に説明することが必要といえる。

政府が7日に決定した緊急経済対策では、民間の金融機関が都道府県の制度融資を活用して実質無利子・無担保の融資をする仕組みも盛り込まれた。政府が利子分を補填し、元本の返済も最長5年間据え置くという内容で、公庫の特別貸付などへの申し込みが殺到する中では、こちらも検討してみる価値があるかもしれない。

これまで2回にわたり、コロナショック下の不動産融資の現状について紹介した。次回は、楽待コラムニストの中で現・元銀行員の不動産投資家6人を直撃。今後の投資用不動産向け融資はどうなる? 「ショック時」に銀行員のマインドはどう変化する? 不動産投資家は今どう動くべき? 銀行員と投資家の視点を併せ持つ彼らの見解を紹介し、今後の不動産融資情勢について推測する。

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