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新型肺炎がもたらす「最悪のシナリオ」とは何か

新型肺炎の影響が広がっても、本当にアメリカ経済は大丈夫なのだろうか(写真:AP/アフロ) 新型肺炎の影響が広がっても、本当にアメリカ経済は大丈夫なのだろうか(写真:AP/アフロ)

 「COVID-19」と命名された中国発の新型コロナウィルス感染は、日本をはじめ世界中に拡散している。ただ各国が対策に躍起になっている中にもかかわらず、アメリカ株は好調さを維持している。

■アメリカ株の「1人勝ち」はいつまで続くのか? 

 中国経済が大きな打撃を受け、その影響が広がる中で世界的に景気が減速するとの懸念が高まる中でもアメリカ株が買い進まれている。これは、やはりFRB(米連邦準備制度理事会)のバランスシート拡大によって、資金が潤沢に供給されているところが大きい。

 中国と地理的に近いアジア株には手を出せないし、欧州も景気見通しが一向に上向かず、積極的に買いを仕掛ける状況ではない。商品市場は景気減速による需要の落ち込みが懸念されているとなれば、残る選択肢はアメリカ株しかないというのが現状だ。

 もちろん安全資産とされる米国債や金市場にも逃避資金が流入しているのだが、その勢いは思ったほどに強くない。過剰な流動性の供給が投資家にある種の安心感を与える中で、まだ真の意味でのリスク回避の動きにはなっていないということなのだろう。まだしばらくはCOVID-19の感染拡大や景気減速に対する懸念を背景とした売りと、FRBの流動性供給を拠り所とする買いがしのぎを削る状況下、市場は不安定な展開が続くことになりそうだ。

 とはいえ、この先COVID-19の感染拡大によって、世界経済が疲弊するのが不可避の状況であることに変わりはなく、アメリカも少なからぬ影響を受けることになるだろう。具体的な数字となってそれが表れてくるのは、2月分の経済指標が発表されるようになる今月末から3月にかけて、だ。指標に弱気内容が相次げば、アメリカ株も今のような快進撃を続けることは難しくなるのではないか。

 世界的な景気減速に対する市場の不安が高まり、投資家の間にリスク回避の動きが本格的に出てくるようになれば、それまでに大きく買い進まれていたものの、割高のものが真っ先に売りを浴びることになる。3月から4月にかけてのいずれかの時点で、かなりの価格調整が見られる可能性は高いと考えておくべきだ。その際は5%程度の調整にとどまれば良いが、景気の落ち込みが思った以上に大きなものとなれば調整も10%を超え、昨年10月の安値を試すあたりまで値を下げることも十分にあり得ると思われる。

■株価が調整しても、意外に早く回復する? 

 こうした一連の景気の減速は、COVIT-19への感染そのものによって、あるいは感染の拡大を防止するためにヒトやモノの移動を制限したことによる、需要の落ち込みによるものだ。

 だが、これは意外に早く回復してくる可能性も高いと考えられる。世界各国が厳しく対策を進めていることが、一時的な需要の落ち込みにつながっていることは間違いないが、その成果が出てくれば感染拡大も徐々に収束に向かうことになるだろう。仮に感染の連鎖を効果的に食い止めることが出来ず、世界中に拡散するパンデミックの状態に陥ったとしても、逆説的ではあるがヒトやモノの移動の制限も意味がなくなるため、解除されていくことになる。

 また景気の先行き不透明感が強まり株価の調整が進めば、FRBが追加利下げに踏み切ることも十分にあり得る。3月17~18日の米連邦公開市場委員会(FOMC)でいきなり政策変更というのは考えにくいが、金利据え置きに失望する形で株価の調整が一段と進むようなことがあれば、4月28~29日の会合で利下げを打ち出す可能性は、逆に高まると見て良いだろう。市場がどの時点で追加利下げを本格的に織り込むようになるのかはまだ何ともいえないが、4月に入ったあたりからそうした期待が高まり、株価が回復してくることも十分に考えられよう。

 しかしながら、FRBの金融緩和という神通力が通用するのも、それが最後となりそうだ。 後2回程度の利下げは効力を発揮するかもしれないが、その結果FF金利誘導目標は1.00~1.25%まで低下することになる。そこから先は、FRBが利下げを行えば行うほど、利下げ余地がなくなってくることの方が、中長期的に懸念材料視されるようになる可能性が高いと見ておくべきだろう。

 ジェローム・パウエルFRB議長も、2月11日、12日に行われた議会証言で、利下げの余地は少なく、次の景気後退期には量的緩和策を再び採用する可能性を示唆したほか、効果的に財政出動を行うことの必要性にも言及した。昨年の短期金利市場の混乱を収束させるためには開始したバランスシートの拡大も限界に近づいており、レポ取引や短期債の購入を徐々に縮小する意向も示している。FRBにおんぶに抱っこの状態で、いつまでも株価を押し上げることは難しくなるだろう。

 問題はこれだけではない。市場では今回のCOVID-19の感染拡大によって中国経済が大きな打撃を受けたことに関して、さらに大きな問題を引き起こす可能性を懸念する向きが増えてきている。それは需要の一時的な落ち込みではなく、工場などの操業の長期停止などによってサプライチェーンが分断されることによる、大規模な品不足減少とそれに伴う物価の上昇である。

■中国の供給が落ち込めば、悪いインフレも? 

 インフレには大まかに二つのタイプがあり、経済成長が続き需要が増えることによって物価が上昇する、ディマンド・プル型のインフレは良いインフレとされる一方、供給面に大きな問題が生じコストが上昇する、コスト・プッシュ型のインフレには問題が多いとされている。

 足元では中国という大きな市場に問題が生じたことによる需要の減少に注目が集まっているが、依然として世界の工場としての大きな地位を占めている中国の製造業が壊滅状態になることよって生じる、供給の大幅な減少の方が、中長期的には遥かに影響が大きいと見ておいた方が良い。現時点で同国からの供給がどの程度落ち込むのかはまだ不明だし、それがサプライチェーンに決定的な影響を及ぼすのかも微妙なところであるが、そうした不安が高まるだけでも物価上昇圧力が強まる可能性は高い。

 また商品などの一時産品についても、現時点では中国の需要減少が大きく懸念材料視されている中で価格下落に歯止めが掛からなくなっているが、こうした価格下落はいずれ供給の大幅な落ち込みにつながり、将来的な価格上昇を呼び込むことになる。農産物はもちろんのこと、OPEC(石油輸出国機構)による減産などの政治的な要因を除けば短期的に生産が変動しにくい原油などのエネルギー製品に関しても、今の価格低迷が続くなら米シェールオイル業者の経営をさらに圧迫、生産が減少することも考えられる。

 FRBのさらなる金融緩和によって株価の調整が限定的なものにとどまり、需要が高止まりを続ける中で、供給が大幅に減少するようなことがあれば、当然ながら物価はかなりのペースで上昇に転じることになる。こうした状況に陥るとすれば、恐らくは夏以降の話になると思われるが、その場合にはFRBをはじめとした主要国の中銀も、インフレ抑制のために金融政策を引き締めに転じざるを得なくなるだろう。インフレはいったん進み始めるとペースに歯止めが利かなくなることを考えれば、利上げのペースもかなりの速さとなるかもしれない。

 アメリカをはじめとした株式市場はこれまで、経済成長が続くなかでも物価が低位で安定するという状況下、「ゴルディロックス相場と呼ばれる上昇局面が続いてきた。その背景に、中国をはじめとしたアジアからの、低コストで安定した供給があったのは間違いないところだが、供給面に問題は生じないという大きな前提条件が、今回の一連の問題によって崩れさることがあれば、その影響は計り知れないものとなるだろう。

■中東情勢も完全に落ち着いてはいない

 私は昨年秋に中東情勢が緊迫した際、原油価格の上昇が中長期的なインフレを引き起こし、最悪の場合はスタグフレーションに陥ってしまう恐れがあるとの警告を発した。その後は原油価格もひとまず落ち着きを取り戻し、さらには今回の中国の需要減少懸念から原油価格が急落したことで当面の懸念は後退した格好となっている。

 だが、今回指摘したような事態が現実のものとなれば、状況がさらに深刻なものとなるのは火を見るより明らかだ。もちろん、中東情勢も完全に落ち着いたわけでは決してなく、大規模な供給の停止によって原油価格が急騰する可能性も十分に残っている。まだかなり先の話であることは確かだし、足元ではアメリカ祭り的な株高の進行に乗っかっているのが最善策なのかもしれないが、こうしたシナリオがあることも頭の片隅にとどめておいた方が良いだろう。

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