雑誌・コラムニュース

東京メトロ社長が明かす「遅延を減らす秘策」

銀座線渋谷駅の新駅舎開業日、同駅発の電車に乗る東京メトロの山村明義社長(撮影:尾形文繁) 銀座線渋谷駅の新駅舎開業日、同駅発の電車に乗る東京メトロの山村明義社長(撮影:尾形文繁)

首都圏179駅という、高密度の交通ネットワークを抱える東京地下鉄(東京メトロ)は、首都圏の移動になくてはならぬ存在だ。夏の東京五輪が開幕すれば、国内外からやってきた多くの観客が地下鉄を利用する。地下鉄の安全・安定輸送をどう保つのか。

■五輪開催時の混雑対策は? 

 ──東京五輪の競技会場に近く、競技開催時に観戦客が集中しそうな駅の混雑対策をどうしますか。

 花火大会やスポーツ大会などの大きなイベント時は対策本部を設けて、行政や消防、警察などと連携しながらシミュレーションを行っている。その結果を踏まえて、お客様の流動が増えそうな場所は、一方通行にするなどの措置を講じるほか、案内要員を増やして円滑な流動ができるようにする。

 列車の増発、終電時間の繰り下げも行うし、水泳競技が行われる辰巳駅には臨時の改札口を増設し、国立競技場に近い青山一丁目駅には大きな20人乗りのエレベーターを2基設置するなどの、ハード対策も行っている。

 2019年の夏には東京都が中心となってテレワークや時差出勤を推進する取り組みが行われ、この間は各駅の需要が数%程度抑制された。五輪期間中は夏休みで、例年この時期の輸送量は10%ほど下がるのも幸いだ。

 ──訪日客対応は。

 多言語対応に力を入れている。駅内の移動、切符の購入、改札、電車の乗降、それぞれの場面で多言語のサイン対策を行う。駅員・乗務員には翻訳アプリが入ったモバイル端末を携帯させているほか、2013年からは英会話能力の向上に取り組んでいる。

 ――地下鉄を対象としたテロも心配です。

 脱線、気象災害といったさまざまなトラブルを想定して、駅員、乗務員、総合指令所、技術、車両など関係部署みんなで異常時総合訓練を行っている。

 警察も参加して刃物を振り回す人にどう対処するかという訓練も行ったし、直近では、車内に爆発物があったという想定で、お客様の待避や、消防がケガをした人を救出するといった訓練をした。ホームドア越しにどうやって重傷者を搬出するかという点で、非常にリアルな訓練ができた。私も見学して、状況を見て、「何か課題はないか」と考えて、次に役立てたいと思っている。

 ――列車の運行で今後重要になってくる技術は? 

 技術の自社開発には限界があるので、いろいろな会社と協業して、お互いの技術や強みを掛け合わせてイノベーションを進めていく。無線通信を利用して列車の位置と速度を検知して、列車の間隔や速度をきめ細かく制御するCBTC(無線式列車制御システム)は非常に重要な技術だ。これまでの固定閉塞の軌道回路方式に比べて列車の安全・安定運行が大きく向上する。

 丸ノ内線では第三者機関の安全性認証が終わったので、これから許認可や工事を行い、2023年度に導入したい。それ以降も日比谷線など路線ごとに順次導入を進めていきたい。

■故障の予兆を検知

 ――列車間隔を詰めることでラッシュ時の列車の本数を増やせますか? 

 理屈上は増やせるが、ラッシュ時はすでにかなりの本数が走っている。どちらかというと、CBTC導入によって生まれた余裕は列車間隔の安定性に充てて、遅延防止に振り向けたい。

 ほかにはCBM(状態基準保全)も重要な技術だ。今まではこの部品は10年おきに交換し、装置は12年おきにオーバーホールといった周期的な予防保全を行ってきたが、これからはさまざまな部品、装置、設備にセンサーを付けて、IoTでセンサーから発信するデータを取得してコンディションを測ることでメンテナンスを行う。

 丸ノ内線の2000系には設置済みで、検車区、指令所、本社で絶えず状態監視をしている。これで故障の予兆を検知するといった、安全性を高めるための質の高いメンテナンスが可能になる。

 ――自動運転は? 

 研究テーマとしては掲げている。保安面、制度面、技術面をよく研究して、方向性をこれから決めていきたい。

 ――鉄道事業の海外展開は? 

 アジアの各都市で道路交通が逼迫しており、都市鉄道への期待が高まっている。ジャカルタ、マニラ、ハノイ、ホーチミン、バンコク、ヤンゴン。これらの都市で鉄道整備、運営、メンテナンスに関する支援を行っている。ぜひ東京の経験を生かしていただければと思う。

 ――支援だけでなく、香港のMTRのように自ら外国で鉄道運行事業に乗り出す考えは? 

 ご期待ありがとうございます。研究していきます。

■大型不動産投資は考えず

 ──JRや大手私鉄は不動産開発を積極的に進めていますが、東京メトロの戦略は。

 虎ノ門ヒルズ、さらに大手町や日本橋でも地下空間で大きな開発が進んでいるが、防災性、回遊性、バリアフリーなどの改善に向けて通路を広くしたり広場を整備したり、快適な街づくりをしている。その際に不動産開発をする余地があれば取り組んでいく。

 とはいえ、基本的には地下の駅空間はお客様が鉄道を利用されるためのスペース。池袋駅や表参道駅では商業施設を展開しているが、このような大きなスペースはなかなかない。

 ──オフィスビルやホテルは造らないのですか。

 バリアフリー化に必要な土地は購入しているが、規模としては小さい。大きな土地を積極的に購入してホテルやビルを建設するといった考えは今のところない。ただ、長期的には関連事業の強化が必要だ。2019年11月に開業した渋谷スクランブルスクエアにも事業主の1社として参加しており、こうした取り組みは行っていく。

 ──国が約53%、都が約47%の株式を保有しています。上場の可能性は。

 上場するかどうかは株主が決めること。当社としてシナリオを持っているわけではない。国と都が話し合いをしていると思う。ただ、上場によってさらによい会社になると信じており、いつでも上場できるよう、事業を磨き込み、経営のガバナンスを強化している。

関連ニュース

銘柄情報を探す

あなたへのおすすめ

情報提供元一覧