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日本で外国人留学生がこんなにも目につく理由

最近、街中で目立つウーバーイーツを支えるのは?(撮影:今井 康一) 最近、街中で目立つウーバーイーツを支えるのは?(撮影:今井 康一)

 自宅のドアベルが鳴り、インターフォンに出ると、「お届けです」という声が聞こえました。どうやらインターネットで注文したハンバーガーが届いたようです。

 配達してくれたのは外国人スタッフのようでした。見た感じでは20代前半の、おそらくはウズベキスタンなど中央アジアからの留学生でしょうか。彼と会うのはそのときが初めてでしたが、こちらはすでに彼の顔も名前も知っていました。なぜなら、私が利用したのは「ウーバーイーツ(Uber Eats)」というフードデリバリーサービスで、ネット上で注文と会計を済ませると、配達員の顔や名前を確認できるのです。

 「ウーバーイーツ」は、東京や大阪などの都市圏で流通している外資系の配達サービス。配達専門のスタッフが料理を受け取って、指定の場所まで届けてくれるシステムです。

■外国人留学生のスタッフが多い

 街中で、大きな箱を背負って自転車を漕いでいるスタッフを見ていると、外国人留学生が多いようです。

 ハンバーガーを受け取るときに、玄関先で少し話してみました。

 「留学生?」

 「はい。日本語学校に行ってます」

 「ウズベキスタンから?」

 「はい、そうです」

 「稼げる?」

 「……?」

 稼ぐ、という言葉がわかりづらかったようなので、別の言葉で聞いてみました。

 「時給は高い?」

 「あー、ほかのバイトよりはたぶんいいです。私の友だちは1日2万円お金もらったことあります」

 「ウーバーイーツ」の収入は週給の歩合制で、エリアによって歩合の料金システムが違ったりして複雑ですが、オートバイを使っている人などは1日で3万円稼ぐ強者もいるのだとか。

 働く時間も自分で自由に決められるので、週に28 時間しか働けない留学生にとっても都合がいいのでしょう。

 同じ日の夜にまた「ウーバーイーツ」で、今度はタピオカティーを頼んでみました。

 「ウーバーイーツ」の登録店舗はどんどん増えていて、2016年のサービス開始当初は東京の港区と渋谷区だけで150店舗程度だったものが、いまでは1万店舗を超えているのだとか。それこそハンバーガーチェーンから、個人店までいろんなお店のメニューを出前で楽しめるのが魅力です。

 タピオカティーを届けてくれたのは日本人の専門学校生でした。

 「(ウーバーイーツは)外国人留学生のアルバイトが多いですよね。事前にクレジット決済されていることも多くて、ほとんど、受け取った商品を届けるだけですから複雑な日本語も必要ない。それに、いまはレンタル自転車もあるし、簡単に始められるから人気なんだと思います。客が配達員を評価するシステムだから、日本人でも外国人でもヘンな人はいないと思いますけど」

拙著『となりの外国人』でも詳しく解説していますが、外国人留学生の数は、この30年間で約10倍に増えていて、2018年末の時点で約33万7000人もいます。そして、そのうちのほとんどが「資格外活動」としてアルバイトをしています。自分の裁量でアルバイトできる「ウーバーイーツ」に外国人留学生が多いのも納得です。

 しかし、なぜ、これほど留学生の数が増えたのでしょう。

 なぜ、労働者ではないはずの留学生が労働力としてカウントされ、結果的に日本経済に組み込まれているのでしょうか。その理由と背景を紐解いていくと、今後の「となりの外国人との付き合い方」も少し見えてくるように思います。

■〝経済大国〟の責任と留学生の増加

 外国人留学生とアルバイトの歴史を振り返ってみます。
〝資格外活動〟として彼らにアルバイトが解禁されたのは1983年7月のこと。第一次中曽根内閣で入管法が改正され、それまで原則的には禁止されていたアルバイトが週20時間程度できるようになりました。

 ちなみに『ジャパン・アズ・ナンバーワン』という経済書が日米でベストセラーになったのが1979年。日本の自動車生産台数がアメリカを抜いて世界第1位になったのが翌年のことです。それから3年、4年、日本の経済がまだ右肩上がりに成長している時代でもありました。

 当時の世論はどのような反応だったのか、閣議決定された当日(1983年6月21日)の新聞を調べてみると、予想とは裏腹に好意的な記事が並んでいて少し驚きました。

 「アルバイトを通じて、わが国の文化、社会を理解することが国際交流を深めるうえで有意義であるとの秦野法相の考え」(読売新聞)

 「アルバイトの『原則自由化』は西欧先進国にも例がない。各国で事情が違うため、一概に比較ができない面はあるが、世界でも画期的な方針としている」(朝日新聞)

 「秦野法相はこの改善策によって『留学生がアルバイトで日本の実社会を体験して、日本をよく理解してもらえるのでは』と期待している」(中日新聞)

 秦野法相とは、70年安保の時代には警視総監を務め、〝武闘派〟として知られた秦野章のこと。アルバイト解禁の背景には「経済大国としての責任を果たすべき」というような、いまからすると少々牧歌的な意識があったようにも思われます。

■留学生30万人計画の行方

 その後、留学生の数は〝順調〟に増え、1998年には「原則的に週28時間まで」のアルバイトができるようになりました。そして、1980年代に行われた「留学生10万人計画」を踏襲する形で「留学生30万人計画」が打ち出されたのが2008年。当時、約14万人だった留学生を2020年に30万人まで増やすべく施行されました。

 当時の担当官のコメントが、2019年の夏までオフィシャルサイトに残されていました。

 「グローバルな時代の中で、日本が、高度人材の大きな供給源となる留学生を高等教育機関に積極的に受け入れていくということは、日本の国際的な人材強化につながるのみならず、日本と諸外国との間に人的なネットワークが形成され、相互理解と友好関係が深まり、世界の安定と平和への貢献にもつながることだと考えています」

 よそ行きの美辞麗句で飾られていてわかりにくいのですが、つまり、政府は「高度人材をより多く受け入れる」ことを至上命題に留学ビザの要件を緩和し、世界中から留学生をどんどん受け入れたということがわかります。しかし、いざフタを開けてみると、高度人材に結びつくようなエリート留学生の数はあまり増えませんでした。

拙著『コンビニ外国人』という本の取材では、東京大学の大学院で学ぶベトナム人留学生から話を聞きましたが、彼のような存在は、全体から見ればほんの一握りです。留学生の多くは、日本語学校や専門学校に通う人たちで、出稼ぎを目的にした留学生も少なくありません。

 実際、東大の留学生が日本の企業に就職する割合は3割程度と言われていて、政府が目論んでいたような「高度人材の供給源」になっているとは言えないのではないでしょうか。

 端的に言って、高度人材を呼び込むプラットフォームだったはずの「30万人計画」の失敗は明らかになった、というわけです。

 しかしながら、〝労働力を確保する〟という意味合いにおいては「30万人計画」は皮肉にも成功しています。ひょっとすると、もとからそういう意図があって計画されたものだったのか、そんなふうにも訝ってしまうわけです。

 目標を前倒しして30万人計画を達成したいま、「ポスト留学生30万人計画」はどうなるのでしょうか。

 さらに受け入れ人数を増やして「50万人計画」とするのか。「100万人計画」とするのか。学生不足で経営難に悩む大学や専門学校、特定技能1号が指定する14の職種から漏れたコンビニ業界などは、もっともっと留学生の数を増やしたいはずですが、担当の文部科学省は、留学生が30万人を超えて1年が過ぎても沈黙したままです。

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