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イギリスの総選挙と「ブレグジット」のゆくえ

BREXIT強硬派として今年7月に英国保守党党首選挙に選出されたジョンソン首相。状況を打開すべく、総選挙に打って出た(写真:ロイター/アフロ) BREXIT強硬派として今年7月に英国保守党党首選挙に選出されたジョンソン首相。状況を打開すべく、総選挙に打って出た(写真:ロイター/アフロ)

「合意なき離脱」が回避され、英国は総選挙へ。総選挙後に待ちうけるのはBREXITの決着か、それとも、さらなる混迷か。まるでジェットコースターのような最近の事象を整理し、英国総選挙のゆくえを展望する。
 2016年の国民投票における離脱多数という結果を受けて始まったBREXIT(英国のEU離脱)プロセスは、想定外の政治ドラマを生み出してきた。EU離脱のスムーズな達成を目指して行われた2017年の総選挙で保守党が過半数を喪失したこと、困難な交渉を経てようやく合意に至った離脱協定案が下院の採決において1度ならず3度にわたって否決されたことなど、英国政治はEU離脱問題をめぐって驚くべき展開を見せてきた。

■EU離脱か否か、決着の時が近づく英国

 国民投票で敗北したデイヴィッド・キャメロン首相の退陣に伴う保守党党首選挙において、不本意な形で出馬辞退に追い込まれたボリス・ジョンソンが、テリーザ・メイ首相の退陣によって実施された保守党党首選挙に圧勝し、首相に就任したことも想定外の事態かもしれない。

 また、「合意なき離脱」も辞さない強硬な立場を公言するジョンソン首相の登場で難航不可避と見られた離脱交渉が、10月31日の離脱期限が迫る中で急転直下の形で妥結し、10月17日のEU首脳会議において新たな離脱協定案の合意に至ったことも驚きであった。

 さらに、離脱協定案が議会で可決され、EU離脱をめぐる混迷に一定の決着がつくのではないかという期待が、離脱期限の再度延長を余儀なくさせる修正動議によって失われたことも、想定外のドラマだったといえるかもしれない。その結果、12月12日に実施される総選挙によって、英国政治の手詰まり状況が打開されるかどうかに注目が集まっている。

 さて、ジョンソン政権発足からこれまでの状況について振り返ってみよう。7月末に首相に就任したジョンソンは、党首選挙において離脱協定の有無にかかわらず10月末の離脱期限を守ると公言していた。また、「合意なき離脱」も辞さないジョンソンの姿勢は、主要閣僚に強硬な欧州懐疑派を登用するなど新内閣の布陣にも反映された。

 一方、メイ首相の離脱協定案について、アイルランド国境問題に関するバックストップ(離脱後の国境における自由な往来を可能にする英EU間の経済協定が締結されるまでの次善の策)の撤回を求めるジョンソン首相の要求をEUが受け入れなかったために、離脱交渉にはまったく進展が見られなかった。交渉が膠着状態に陥ったことから、ジョンソン首相は離脱交渉の時間切れで「合意なき離脱」になることを望んでいるのではないかという疑念も示された。

 こうした疑念を強めたのが、ジョンソン首相が9月中旬から10月中旬にかけて議会の閉会を決めたことであった。

 離脱期限が迫る中で5週間もの異例の長期間にわたって議会を開かないのは、「合意なき離脱」を阻止する動きを無力化するための策謀であるとして強く批判された。結局、議会の承認なしに「合意なき離脱」が到来する事態を避けるために、EU首脳会議までに新たな離脱協定案が合意され、それに対して議会が承認を与えるか、あるいは、「合意なき離脱」を議会が承認しなければ、EUに対して再度離脱期限延長を申請することを政府に義務づける法律が閉会直前に制定された。

 なお、政府による長期の閉会を違法とする最高裁判決が出されたことで、9月下旬に議会は再開された。

 議会の長期閉会を狙ったジョンソン首相の策は、結果的に政権基盤に大きな打撃をもたらした。なぜなら、「合意なき離脱」を阻止する法案に対して、党議拘束を破って保守党議員の中から少なくない賛成票が投じられたが、ジョンソン首相が造反議員の保守党会派所属を否定したことから、過半数を持たない保守党の議席がさらに減少したからである。

■「アイルランド国境問題」で英国が譲歩

 10月初旬にジョンソン首相はメイ首相の離脱協定案に代わる新たな提案を行った。その概要は、ジョンソン首相が問題視するアイルランド国境問題に関するバックストップに代わって、英国が全体としてEUの関税同盟から離脱する一方、北アイルランドが農産物や工業製品に関するEUの基準や規制の適用を受けることで、国境での検査を不要にするというものであった。

 バックストップでは英国全体が実質的にEUの関税同盟に留められるために、第三国との間でEUとは異なる英国独自の貿易協定が結べないという問題があったことから、これを排除したのである。

 しかし、EU側からすると新提案には受け入れがたい点があった。それは、北アイルランドがEUの関税同盟から抜けることで、アイルランド国境において通関手続きが必要になるという問題であった。ジョンソン首相の提案は北アイルランド紛争の和平合意に示された国境での自由な往来を保障するものではない、という点が問題とされたのである。

 これを受けて、ジョンソン首相は提案修正に踏み切った。それは、北アイルランドを含む英国全体が法的にはEUの関税同盟から離脱するという原則を維持しつつ、アイルランド国境での通関手続きを回避するために、英国本土(グレート・ブリテン島)と北アイルランドの間で通関手続きを実施するという内容であった。

 関税上の境界線を実質的にアイルランド海に設定することで、アイルランド国境での通関手続きが不要になるというわけである。これにより、アイルランド国境における自由な往来という和平合意の原則を維持することが可能となる。なお、英国本土からの商品が英領である北アイルランド内にとどまる場合には、アイルランド海を渡る際に徴収されたEUの関税を還付する手続きが適用されることになっていた。

 英国側の譲歩をEU側は歓迎し、先述のようにEU首脳会議で新たな離脱協定案について合意に至った。その後、離脱協定案の承認手続きに関して、EU側については問題視されていなかったが、英国側については、はたして議会の承認が得られるかどうかが懸念された。メイ首相の離脱協定案を3度否決した英国議会が、新たな離脱協定案を承認するかどうか定かではなかったのである。

 ちなみに、アイルランド国境問題をめぐる修正を除けば、新旧の離脱協定案に大きな違いはない。離脱後の関係についての政治宣言が若干改訂された以外は、離脱清算金、EU在住英国国民と英国在住EU市民の権利、2020年末までの移行期間など、ほぼ以前の内容が踏襲されていた。

 しかし、バックストップに代わる新たな枠組みを提示したことで、ジョンソン首相の離脱協定案は保守党の強硬な欧州懐疑派の支持を取り付ける可能性が高くなった。彼らが問題視していたのは、バックストップによって英国がEUの関税同盟に留められ、第三国との間で貿易協定の締結ができないことであった。この点、新たな離脱協定案は、EU離脱後の移行期間終了とともに、英国は自由に貿易協定を結ぶことができるようになっていた。

■「合意なき離脱」の回避から総選挙へ

 ただ、議会での承認に関して新たな離脱協定案には問題があった。英国本土と北アイルランドの間で関税に関する事実上の国境が発生することに対して、保守党政権に閣外協力を行っていた民主統一党が激しく反発し、反対姿勢を明確にしたのである。民主統一党にとっては、北アイルランドを英国本土と固く結びつけておくことが最重要の課題であり、それを危険にさらす離脱協定案は容認しがたいものであった。

 ただ、ジョンソン首相にとって民主統一党の反対は織り込み済みのリスクだったかもしれない。なぜなら、民主統一党が反対したとしても、メイ首相の離脱協定案に反対した強硬な欧州懐疑派の保守党議員が賛成に回り、さらに労働党や無所属の議員の賛成票を一定数獲得できれば、賛成多数を確保するメドが立つからであった。

 実際、離脱協定案は可決されるという見方もあった。しかし、事態は再び想定外の展開を見せ、先述のように修正動議が可決したことで、ジョンソン首相はそれまで否定してきた10月末の離脱期限延長について、EUへの申請を余儀なくされたのである。

 離脱期限の延長申請を強いられたジョンソン首相は、10月末でのEU離脱達成に向けた最後の努力を見せた。離脱協定案に関する修正動議は、10月末での離脱を否定するものではなく、離脱協定関連法案が成立するまで協定案に対する議会の承認を留保するものであった。それゆえ、現実的には可能性が高いとはいえなかったが、10月末までに法案を成立させて離脱協定案への承認を確保できれば、ジョンソン首相は公約である10月末までの離脱という目標を実現できるはずだった。

 しかし、またもや議会がジョンソン首相の希望を打ち砕いた。10月21日に提出された関連法案の審議を行うことについては賛成多数で可決されたものの、審議期間を3日間に限定する政府の動議は、法案の重要性に鑑みて慎重な審議を求める声があったことから反対多数で否決されたのである。

 その結果、10月末での離脱の可能性は閉ざされた。一方、英国議会の対応を注視していたEUは、2020年1月31日を新たな離脱期限として設定した。

 離脱期限が3カ月延長されたことで、期限切れでの「合意なき離脱」の危険はひとまず回避された。そして、焦点は袋小路に陥ったEU離脱プロセスを打開するための解散総選挙に移った。実は、ジョンソン首相は、9月初旬に「合意なき離脱」を阻止するための法律が制定された際、離脱交渉を行う政府の立場が制約されることに反発して、解散総選挙を求める動議を下院に提出していた。

 しかし、このときには、野党の賛成が得られず総選挙は実現しなかった。2011年固定会期法により、解散総選挙を求める動議が可決するためには、下院議員の3分の2以上の賛成が必要であるが、保守党が過半数を持たない中で賛成票は3分の2をはるかに下回ったのである。

 労働党など野党は総選挙自体に反対していたわけではない。野党の反対理由は、総選挙の前に離脱期限の延長を確定させるべきというところにあった。延長が確定する前に総選挙を行うことは、「合意なき離脱」の危険があると考えられたのである。

 例えば、ジョンソン首相が野党の賛成を得て議会を解散した後、投票日を11月に設定すれば、10月末に期限切れでの「合意なき離脱」が到来する危険があると指摘された。このようにジョンソン首相に対する野党の信頼が低かったことから、EU離脱プロセスを打開するための解散総選挙を実現するのは困難だったのである。

 しかし、離脱期限の1月末への延長が確定したことで「合意なき離脱」の危険はひとまず回避され、事態は解散総選挙へ向けて急速に動いていくことになった。固定会期法の適用を回避して早期解散総選挙を実現するための法案が議会に提出されたところ、与野党の賛成により3分の2を超える圧倒的多数で可決成立したのである。その結果、12月12日に総選挙が実施されることになった。

■保守党の勝利か、ハング・パーラメントか

 かくてBREXITの行方は総選挙の結果次第ということになったわけだが、総選挙後にどのような展開が考えられるだろうか。

 可能性が高いとみられているのは、保守党が過半数議席を獲得して総選挙に勝利し、ジョンソン首相の離脱協定案が議会で承認されて1月末での離脱が達成されるというシナリオである。政党支持率に関して保守党が労働党を大きく引き離していることから、このシナリオが現実化することは十分考えられる。また、離脱票をめぐって競合するEU離脱党が、立候補者を大幅に縮小したことも保守党への追い風となった。

 ただ、1点注意しておくべきなのは、この形で離脱が実現したとしても、実質的な「合意なき離脱」の危険は残っているということである。なぜなら、離脱協定案では、2020年12月末を期限とする移行期間中に英国とEUの経済関係を規定する協定を締結することになっているが、この協定について合意に至らなければ、英国とEUの経済関係に大きな混乱がもたらされるからである。

 もちろん、双方の合意で移行期間を延長することも可能だが、ジョンソン首相は選挙戦の中で移行期間の延長を否定する強硬姿勢を打ち出すことになった。その意味では、10月末に回避された「合意なき離脱」の危険は、実質的には1年少々先延ばしになったにすぎない、といえるかもしれない。

■英国の将来を左右する総選挙

 保守党が過半数議席を獲得できず、前回2017年総選挙と同様にハング・パーラメント(宙づり議会)になればどうなるのか。実は、今回の総選挙もハング・パーラメントとなる可能性は否定できない。前回の総選挙でも、選挙戦開始時点では保守党が労働党を支持率で圧倒的にリードしていたが、投票日までにリードが大幅に縮小した結果、メイ首相は過半数議席を獲得できなかったのである。

 もちろん、ロンドン市長選で労働党候補を2度破ったジョンソン首相は、メイ首相よりもはるかに選挙巧者ということができるかもしれないが、不祥事でウェールズ相が辞任するなど選挙戦開始時点でのつまずきを見ると、保守党がリードを守ったまま総選挙に勝利するのは確実とまではいえないだろう。

 もしハング・パーラメントになった場合には、これまでの英国議会の混迷が繰り返される恐れがあるだろう。また、可能性はそれほど高いとはいえないかもしれないが、もし労働党や自由民主党、スコットランド国民党など、EU離脱の是非について再度国民投票を実施することに前向きな勢力が下院で過半数議席を占めるようなことがあれば、2020年中に国民投票が行われることも想定される。

 ただ、労働党の中には、国民投票を再度実施することに否定的な議員も存在していることから、2度目の国民投票でEU離脱問題に決着をつけるという道は、決してスムーズなものではないことが予想される。

 BREXITのゆくえに一定の見通しが立つのか、あるいは不透明な状況がさらに継続するのか。12月12日に行われる英国の総選挙は、BREXITのゆくえのみならず、英国の将来を左右する分岐点になりそうだ。

力久昌幸(りきひさ まさゆき)/同志社大学教授。1963年福岡県生まれ。京都大学卒、同大学院博士課程研究指導認定退学。博士(法学)。北九州市立大学法学部教授を経て現職。専門分野はイギリス現代政治、ナショナリズムと政党政治。主著として、『イギリスの選択 欧州統合と政党政治』『スコットランドの選択 多層ガヴァナンスと政党政治』など。

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