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可変料率の導入検討で萎む預金保険料の大幅ダウン期待

〔図表〕FDICが定める標準的な得点表(大手金融機関の場合) 〔図表〕FDICが定める標準的な得点表(大手金融機関の場合)

「週刊金融財政事情」編集部

規模・特性がさまざまな金融機関にとって、業界として一枚岩となって行動できることは少ない。ただ、預金保険料率の引下げを巡っては、利害が完全に一致していた。責任準備金の目標水準(5兆円)の到達を目前にして、預金保険料率の大幅ダウンを見込んでいた金融界。ところが、金融庁が示した可変料率導入の検討で、料率大幅ダウンへの期待が急速に萎みつつある。可変料率の導入を巡っては、かつて挫折した日本版CAMELSへの再チャレンジも想起されている。

5兆円を目前に青天の霹靂

 「マイナス金利の深掘りが追加緩和策の選択肢になっている昨今、円預金はコストでしかない」。こう話す大手行の財務担当役員は、足もとの預金流入の傾向に警戒感を示し、「預金保険料率は低ければ低いほうがよい」と漏らす。2007年10月から預金保険の対象金融機関となったゆうちょ銀行の幹部も「微々たる引下げであっても、経費削減効果は大きい」と話す。詰まるところ、預金保険料率の引下げは預金保険制度に加入する全金融機関の切なる願いだ。
 現在、預金保険の対象金融機関は、保有する預金量に対して一律の預金保険料率を乗じて算出された預金保険料を、預金保険機構(預保)に納付している。保険金支払いの原資となる預保の一般勘定を巡っては、金融危機の影響から欠損金が02年度末に4兆円規模までふくらんだが、10年度末には解消。預保は15年3月、責任準備金の目標水準を5兆円程度とし、21年度末をメドに積み立てることにした。責任準備金は18年度末で3兆9,876億円を計上しており、19年度の実効料率は0・033%で、17年度以降3年連続で引き下げている。
 金融界では、責任準備金の目標水準を達成した暁には、預金保険料率が大幅ダウンするとの観測が大勢を占めていた。そうしたなか、金融庁が8月28日に示した今事務年度の金融行政方針で「可変料率」に言及があったことに、業界団体関係者は「虚を突かれた思い」と口をそろえる。
 可変料率は、経営悪化の程度が大きい金融機関であればあるほど、高率の保険料を納める仕組み。導入されれば、現行水準と比べて保険料収入の確保が難しくなることも考えられ、ひいては財政状況(責任準備金の規模)に影響を与えうる。つまり可変料率は、預金保険料率の大幅ダウンへの期待を水泡に帰す制度になりかねないのだ。
 もっとも、あくまで保険料率を決めるのは預保の運営委員会であり、「金融庁が頭ごなしに可変料率導入を決めることはできない」(金融庁幹部)。まずは金融庁と預保で会議体を組成するなど、検討の場づくりが必要となるが、「具体的なスケジュールは決まっていない」(同)。保険料率を決定する運営委員会は毎年3月に開かれるが、そこをターゲットとして制度を固めるかどうかも未定で、「19事務年度内に成案を得られるかもわからない」(同)という。

パッケージ策に盛り込んだ意図

 さらに、金融行政方針で可変料率が「地域金融機関の持続可能なビジネスモデルの構築に向けたパッケージ策」の一環に位置付けられたことについて、疑問の声が上がっている。
 預金保険法には「地域金融機関」などという概念はなく、むしろ金融機関を規模などでグルーピングして保険料率の取扱いを変えるような措置を禁じている。実際、同法の条文には、「保険料率は(中略)特定の金融機関に対し差別的取扱い(金融機関の経営の健全性に応じてするものを除く。)をしないように定められなければならない」(51条2項)とある。
 ただし、同条文のカッコ書きにより、金融機関の経営の健全性に応じて保険料率の取扱いを区別することは認められており、この特例こそ、可変料率の導入が可能であることを明確化している。金融庁幹部も今回の検討は「法改正を要するものではない」という認識を示す。そうならば、預金保険の対象金融機関に対して、「可変料率の導入を検討する」とシンプルに言えばよいように思えるが、金融庁は「地域金融機関に健全性の向上を促すインセンティブ」(幹部)として検討することを強調する。
 そこで考えられるのが、早期警戒制度との併用だ。今年4月に見直された同制度では、将来見通しを含む健全性や収益性など金融庁が定める基準に該当した地域金融機関に対し、早期の経営改善を促すこととされた。対象となる地域金融機関に対して“直接的なペナルティー”となる預金保険料率の引上げも併せて実施することで、「経営の構造改革を促す効果が一段と上がる」(金融庁OB)。地域金融機関向けのパッケージ策に盛り込んだ背景には、こうした展開が隠されているのかもしれない。

日本版CAMELSの再来なるか

 金融庁はこれから可変料率を検討していくにあたり、「すでに採用されている米国の制度などを研究していく」(幹部)とする。ただし、米国の可変料率では評定制度(CAMELS)が重要な要素となっており、日本が可変料率を実施するにあたっても、評定制度の活用が大きな課題に浮上する可能性がある。
 実は日本にも評定制度が存在する。金融庁検査局は05年7月、米国のCAMELSを参考にした金融検査評定制度を創設した。金融機関の検査結果について、「信用リスク管理態勢」など9項目を4段階で評価するもので、その評価が次回の検査の濃淡(頻度、範囲、深度)に反映される仕組みだ。当時、評定制度をさらに発展させて、「評定に基づく検査結果を、検査の有料化や可変料率、中央銀行の貸出金利などに反映させる構想があった」(同OB)という。だが、オンオフ一体の金融モニタリングの手法が重視される中にあって、評定制度の運用はいつの間にか立ち消えになってしまった。
 米国では現在、連邦預金保険公社(FDIC)に加盟する金融機関を、総資産100億ドル以上の大手金融機関と、それ未満の中小金融機関にグルーピングしている。図表の得点表により点数を出し、総合評点を計算式に沿ってベース料率に換算する仕組みだ。また、世界の預金保険機関が加盟する国際預金保険協会の「コアとなる諸原則」の中に、可変料率を採用する場合の記載があり、そこでは保険料算出システムの透明性を確保する一方、同システムに基づく個別の金融機関の格付やランクの機密が保持されることを求めている。つまり、保険料算出の枠組みは公表するが、結果については門外不出の扱いでなくてはならない。
 すでに可変料率を導入している国では、定性要因や当局の検査結果を料率算定の評価項目の一部にしている。行政の恣意性にアレルギーが強い日本の金融界において、いかなる評価項目が採用されるのか。もっとも、「あれだけ『探究型対話』を強調しておいて、評定制度の活用はないだろう」と、高をくくる向きも少なくない。(2019年9月23日号より転載)

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