雑誌・コラムニュース

みんなの銀行設立で地方銀行の殻を破るFFG

8月7日にFFG本社でみんなの銀行設立を発表した横田浩二取締役(右)と永吉健一氏。 8月7日にFFG本社でみんなの銀行設立を発表した横田浩二取締役(右)と永吉健一氏。

「週刊金融財政事情」編集部

ふくおかフィナンシャルグループ(FFG)は8月7日、来年度にインターネット専業の「みんなの銀行」を設立することを発表した。スマートフォンでの利用を念頭に置いたモバイル専業銀行として全国展開する。営業エリアが特定の地域に限られてきた地銀にあって、みんなの銀行はその殻を破る試みといえる。クラウド基盤でゼロから勘定系システムを構築するため、従来の銀行とは一線を画す機動力が強みになる。BaaS型ビジネスなどの展開によって新たな収益の獲得を目指す。

地銀が全国で勝負する初の事例

 みんなの銀行が主要な顧客基盤として想定するのは、インターネットサービスに親しみのある全国の若い世代だ。モバイル専業のネット銀行を設立する背景には、若年層の銀行離れや、LINEの銀行業参入といった異業種が手掛ける金融業への危機感がある。さらに、「地方圏ではマーケットがシュリンクしていくことが想定されている。銀行としてせっかくデジタル化に取り組んでもパイが小さくなるのでは持続的な成長が描けない」(FFG事業戦略部の永吉健一氏)という問題意識もあった。みんなの銀行設立準備会社の代表を務めるFFG取締役の横田浩二氏は、「お客さまのニーズに応えるため“まったく新しい”将来の銀行をゼロベースで追求する」と説明した。
 地銀によるネット銀行の設立は、みんなの銀行が初めてだ。既存銀行によるネット銀行の設立は他国でも見られ(43頁参照)、IT企業などが提供するフィンテックサービスに対抗する切り札とされている。仮にみんなの銀行が規模を拡大すれば、FFG傘下の既存銀行とカニバリゼーションが発生するおそれがある。しかし、そうした際には「既存の銀行は企業向け融資などの機能に集中させていけばよい」(京都大学公共政策大学院・岩下直行教授)。
 例えば、NTTグループでも、携帯電話が普及する中で固定電話に関しては新しいサービスを打ち出さず、担当する人員も減らしてきた。その代わりに、固定電話よりニーズも収益性も高いスマートフォンを扱うNTTドコモの事業を拡大させている。岩下教授は「銀行でも同様の変化があってしかるべき」と指摘する。
 とりわけ営業エリアが特定の地域に限定される地銀は、人口減少や高齢化による市場規模の縮小という事態に直面している。金融サービスの多くがアプリで簡単に完結するようになるなか、若年層を中心とする顧客がメガバンクやフィンテック企業などに奪われることへの懸念も高まっている。「従来のブランチバンキングの付け足しのような取組みではなく、重要な戦略としてデジタルバンクをとらえなければならない」(岩下教授)状況といえる。

既存銀行を圧倒する機動力

 FFGは、5月に発表した中期経営計画においてデジタルトランスフォーメーションの推進を掲げ、傘下の既存銀行でもデジタル化の取組みを進めている。しかし、既存の銀行システムや業務のオペレーションを前提に新たなデジタルサービスを展開していくのでは時間がかかり、異業種が矢継ぎ早に打ち出す新たな金融サービスと勝負するのは難しい。みんなの銀行の強みは、既存銀行と比して格段に優れた機動力であり、そのカギを握るのが現在開発中の勘定系システムだ。
 実は、みんなの銀行が用いる予定のシステムに関しては、7月31日に開かれた企業や開発者向けのグーグルクラウドのイベントにおいて、その一部が語られていた。イベントにはFFGの永吉氏とアクセンチュアの関戸亮司副社長が登壇。アクセンチュアがグーグルクラウドプラットフォームを活用して、金融機関の次世代基幹系システム「メイリー(MAINRI)」を開発したことを発表した。そしてFFGの子会社であるゼロバンク・デザインファクトリーにおいて、新システム導入に向けた研究開発を行っていることが語られたのだ。この新システムの最初の導入行こそが、8月7日に発表されたみんなの銀行だ。
 既存の銀行が新たにオンラインのサービスを開発・提供する際も、巨大かつ複雑な既存システムへのつなぎ込みが必要になるため、「手間が大きく、費用と時間がかかる」(システム会社関係者)。これに対し、クラウド基盤のもと「ゼロベース」で必要な機能に絞って勘定系システムを構築するみんなの銀行は、既存銀行と同じようなジレンマを抱えることなく、安価でスピーディーに斬新なデジタルサービスを開発・提供することが可能になる。

BaaS事業への期待

 新システムでは「マイクロサービス」と呼ばれる設計手法を採用し、システムの保守・運用の自動化や分散データベースといったシステム開発の潮流を取り込んでいる。マイクロサービスは機能ごとに細かくシステムが設計されることから、従来よりも柔軟でスピーディーなシステムの修正も可能となる。
 さらに、機能ごとにシステムが設計されることで、新たなビジネスモデル展開も視野に入る。その代表例が、非金融事業者などに金融の機能を提供する「BaaS(バンキング・アズ・ア・サービス)」型ビジネスの展開だ。
 例えば、インターネット上で中古車販売を行う事業者に金融機能を提供する場合であれば、サイト上で車の購入希望者の取引データや信用情報に基づいて、ローンの金利を示すことができる。事業者にとっては既存サービスの付加価値にもなることから、「すでにBaaS型ビジネスに関心を示している事業者もある」(FFGの永吉氏)という。みんなの銀行では、BaaS型ビジネスにおける金融機能の提供先から手数料を得るなど、既存の銀行よりも収益源を多様化していく方針だ。
 BaaS型ビジネスに関しては、2018年10月に富士通が従来の勘定系システムをマイクロサービス化することを発表しており、ソニー銀行などでも手掛けることが想定されている。金融の機能の一部を提供するBaaS型ビジネスの展開が進むことで、いよいよ日本でもオープンAPIによる金融サービスが花開く可能性がある。
 日本の銀行は20年5月までにフィンテック企業などの電子決済等代行業者との契約締結をはじめ、オープンAPIの対応が努力義務として課せられているが、期限が迫る中にあっても地銀などの対応はほとんど進んでいない。その理由としては、API接続による銀行側のメリットが見いだせない点が指摘される。しかし、APIの接続先はフィンテック企業に限ったものではなく、非金融事業者に対してBaaS型ビジネスを展開することで、銀行の新たな収益につなげられる可能性も見えてきた。
 かつてビル・ゲイツは、「銀行の機能は必要だが、いまある銀行は必要なくなる」と言い放った。この言葉に対する銀行の対応策の一つがBaaSともいえよう。みんなの銀行などが取り組むことで、BaaS型ビジネスが今後の新たな潮流となるのかも注目される。(「週刊金融財政事情」2019年8月26日号より転載)

銘柄情報を探す

あなたへのおすすめ

情報提供元一覧