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「所有者不明土地」が九州の面積を超える理由

「この家や土地はいったい誰のもの?」(写真:freeangle / PIXTA) 「この家や土地はいったい誰のもの?」(写真:freeangle / PIXTA)

■死亡者名義のままの農地がそのままに…

 いったい誰の土地なのか――。

 土地所有者の居所や生死が判明しない、いわゆる土地の「所有者不明」問題が、日本各地で表面化している。2010年代に入り、マスメディアでも少しずつ取り上げられるようになったが、実は地域レベルでは必ずしも新しい問題ではない。

 1990年代初頭には、森林所有者に占める不在村地主の割合が2割を超え、林業関係者の間では、過疎化・相続増加に伴う相続人把握の難しさが指摘されていた。農業では、死亡者名義のままの農地が、集約化や耕作放棄地対策の支障となるとして、長年問題になっていた。

 2015年に鹿児島県が県単位で初めて行った調査によると、市町村の農地台帳、住民基本台帳、固定資産課税台帳の3つを照合した結果、各台帳間で名義人が一致せず、相続未登記が疑われる面積は5万9870ヘクタール、県内農地の38.2%を占めた。そのうち、農地所有者の死亡を住民基本台帳で確認できた確実な相続未登記農地は、3万2900ヘクタールで、県内農地の21%に上った(南日本新聞 2016年3月31日)。

 この問題は、国が農地集積や耕作放棄地の解消を図ることを目的に2014年4月からスタートした農地中間管理機構の取り組みでも支障となっている。

 農地を機構へ貸し付ける際は、相続登記済みであることが原則となっている。そのため、長年登記が放置されてきた農地では、権利関係の調整に手間取る例が各地で報告されている。

 こうした実態を踏まえ、農林水産省は2016年4月、初めて全国的な相続未登記農地の実態把握に乗り出した。政府の「日本再興戦略2016 第4次産業革命に向けて」(2016年6月2日閣議決定)のなかでも、「相続未登記の農地が機構の活用の阻害要因となっているとの指摘があることを踏まえ、全国の状況について調査を行うとともに、政府全体で相続登記の促進などの改善策を検討する」ことが明記された。

 農林水産省は12月に調査結果を公表した。そこでは、農地の登記名義人について、固定資産課税台帳および住民基本台帳上のデータとそれぞれ照合したところ、登記名義人が死亡していることが確認された農地(相続未登記農地)は、47万6529ヘクタール。さらに、登記名義人の市町村外への転出などにより、住民基本台帳上ではその生死が確認できず、相続未登記となっているおそれのある農地は45万7819ヘクタールだった。

 合計面積は約93万ヘクタールに上り、日本の全農地面積の約2割に達していた。そのうち、農地として活用されていない遊休農地の面積は約5万4000ヘクタールで、遊休農地面積全体の約4割を占めた。

 こうした未登記農地でも実際農業が行われているが、たとえ現時点では問題はなかったとしても、今後、現在の所有者が離農した場合、先代にさかのぼって相続人調査を行い、登記書き換え手続きが必要となる。農地活用の大きな妨げになることが懸念される。

■所有している森林の場所が「わからない」

 林業の現場でも問題は深刻である。

 森林では、所有者の死亡後、相続登記がされないことで、林道の整備や間伐の実施などについて相続人の同意を得るにも連絡がなかなかとれず、管理上の問題となるケースが多発している。都市部に暮らす相続人は、相続した森林の所在すら知らないことも少なくない。

 たとえば、石川県小松市が市内の森林所有者(市外・県外在住者を含む)を対象に2015年にアンケート調査を行った(発送総数/7367通、回答数2554通、回答率34.7%)。そのうち所有者の12.9%にあたる950個人・団体にはそもそも郵便が届かず差出人戻しとなり、所在が不明となっていることがわかった。所有している森林の場所が「わからない」とする回答も570人(23.0%)に上った。

 自治体の公共事業の用地取得でも、同様の問題は起きている。

 「用地取得ができれば工事は7割済んだも同じ」といわれるように、用地取得の交渉や手続きの大変さは関係者の間でしばしば指摘されてきていた。

 この問題については、これまで本格的な実態調査はほとんど行われておらず統計データは少ないが、相続未登記の土地が公共事業の大きな妨げになっていることは、多くの基礎自治体の現場でよく知られている。

 たとえば、全国町村会が2013年7月に決定した「平成26年度政府予算編成及び施策に関する要望」のなかでは次のように要望が出されている。

 「相続人が多数存在し、かつ、相続手続きが一定期間(少なくとも三世代以上)なされていない土地を、地域住民が生活していくうえで不可欠な公共用地として取得する場合は、簡略な手続きで行えるよう法的整備を」と。

 なぜ、こうした「権利の放置」が起きるのだろうか。

 国土交通省が2014年に行った調査によると、全国4市町村から100地点ずつを選び、登記簿を調べた結果、最後に所有権に関する登記が行われた年が50年以上前のものが19.8%、30~49年前のものは26.3%に上った。

 つまり、親から子へ代替わりが行われるまでの1世代を30年と考えるならば、1世代以上、所有者情報が書き換えられていない登記簿が全体の半分近くを占めているのである。相続未登記は、いまに始まったことではない。過去数十年にわたり蓄積されてきているのだ。

 なぜ、相続登記が長年放置されるのか。

 その理由としてまず考えられるのは、「登記をしなくても何も困らない」からというごく単純なものだろう。相続登記の手続きは、土地の売却や、住宅ローンを組むために抵当権を設定するといった、必要性が生じたときに行われることが多い。地域で農業用水路や農道などの整備を進めるにあたり、権利移転のために登記が必要となったときなども、手続きが進むきっかけになる。

 そのため、親の家を相続してそのまま自分が住み続ける、あるいは、親の土地を現状のまま利用し続ける分には、未登記のままでもさしあたって支障はない。

 特に地方では、「相続登記をしていなくても、近所の人たちは『あれは○○さんの山だ』ということをわかっている」「ここの土地は代々うちの家族が住んでいることは、登記しなくても明らかだ」という認識が強い。手間と費用をかけて相続登記する必要性を感じないのである。

 相続した親の土地の登記をしていないと話す60代の男性は、「田舎では昔は家を自己資金で建てた。そのため、ローンを組むために登記を自分の名義に書き換えておく、といった手続きも不要だった」という。

■相続登記は8件という地方の自治体

 登記をしないことによるデメリットが、とりわけ地方では少ない。当面、相続登記をしていなくとも不便はなく、登記の手続きも「面倒だな」と言っている間に、そのままになっていく。そもそも、法務局が遠く簡単には行けない地域も多い。相続未登記はこうして目に見えないところで蓄積されてきたのである。

 筆者の聞き取り調査では、ある地方の自治体(固定資産税の納税義務者総数が約3万人)では、2011年(1年間)の市内土地家屋所有者の死亡者数468人のうち、2012年12月末までに相続登記が行われたのはわずかに6件。これは1年さかのぼってもほとんど変わらない。

 2010年(1年間)の同死亡者数409人のうち2012年12月末までに相続登記がなされたのはわずか8件だった。

 大都市圏に暮らす人々にとっては、こうした状況は想像しづらいかもしれない。資産価値の高い都市部の宅地であれば、登記手続きをしないことは権利を守るという観点から考えにくい。宅地は家計資産の5割以上を占める重要な財産である。「なぜ土地の登記が放置されるのか」ということが理解されないかもしれない。

 全国の私有地の2割はすでに所有者の把握が難しくなっている。面積に当てはめると、四国はもちろん、九州を上回る規模だ。

 現在の日本の土地制度は、明治の近代国家成立時に確立し、戦後、右肩上がりの経済成長時代に修正・補完されてきたものだ。地価高騰や乱開発など「過剰利用」への対応が中心であり、過疎化や人口減少に対応した制度にはなっていない。「所有者不明化」は、こうした社会の変化と現行制度の間で広がってきた。

 本来、個人が維持管理しきれなくなった土地は、できれば共有したり、新たな所有・利用者に渡ることが望ましい。

 だが、現状、そうした選択肢は限られる。地域から人が減る中、利用見込みや資産価値の低下した土地は、そのまま放置するしかない。「いらない土地の行き場がないんです」とは、ある自治体職員の言葉である。

 親族や自らが所有する土地をどう継承していくかは、個人の財産の問題であり、さらには地域の公共の問題へとつながっていく。「所有者不明化」問題の広がりは、人口減少時代における土地情報基盤のあり方、さらには管理と権利の継承のあり方について、根本的な課題を提起している。

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